メケメケ

メケメケ

町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

コーヒー愛に突き動かされ、自力でフェスを立ち上げた20歳の煌めき

f:id:yanvalou:20191108145429j:plain
10月中旬のことである。ローカルなニュースサイトを眺めていたところ、「横浜で初めてコーヒーフェスティバルが開催される」という見出しが目に留まった。記事を目で追って驚いた。主催者は若干20歳だという。しかも専門学校生らしいのだ。もちろんバックに誰かがついている訳ではない。

興味を覚えたので、会場に足を運んだ。と言ってもその日は用事があったので、現地にいたのは5分程度。しかし横浜スタジアムの足元に並んだテントには、行列が出来ていた。文字通り市場の賑わいである。

www.instagram.com

 主催者は、一体どんなバックグランドを持っているのだろう。主催者の百崎佑さんに、バリスタとして働く表参道で話を聞いた。

 

f:id:yanvalou:20191108145822j:plain

百崎 佑  (Yu MOMOZAKI) 

高校時代、行きつけのコーヒー店バリスタが淹れるコーヒーに出会い、その接客術やホスピタリティに魅了される。カフェの専門学校「レコールバンタン」に在学中。
ラテアートやスペシャティーコーヒーに特化した「EXCELSIOR CAFFE Barista」と「CAFE LEXCEL」でバリスタとしてのキャリアをスタートさせた高校時代を経て、現在はキャンピングトレーラー「エアストリーム」が目印のカフェ&コーヒースタンド「the AIRSTREAM GARDEN」(表参道)に勤務。

 

こどものまちで市長を経験した

子供時代の百崎さんは、「ミニヨコハマシティ(以下「ミニヨコ」)」というこどものまちの活動に参加していたという。きっかけは、小学校4年のとき、学校で配られたチラシを見て応募したことだった。

最初は「つづきジュニア編集局」というメディアで活動し、それからミニヨコに参加した。

junior.minicity-plus.jp

 

こどものまちは、子供が職業体験できるテーマパーク「キッザニア」と似ている部分がある。しかし完全に大人がお膳立てしている「キッザニア」とは異なり、「ミニヨコ」は子供主体で、あらゆることを子供が決定する。たとえば「キッザニア」では店舗のオペレーションは子供に任されているが、「ミニヨコ」では店長自身も子供で、経営の決定権を持っている。のみならず議会制や市長選といったリアルな政治の仕組みも導入されており、町の運営は子供に託されている。

百崎さんは中学1年の終わり頃「ミニヨコ」の市長選を勝ち抜き、何期かつづけて政務をこなした。今回コーヒーフェスが開催にこぎ着けたのも、その当時の経験や人脈が活きているお陰だという。

f:id:yanvalou:20191108145906j:plain

そんな百崎さんがコーヒー業界に足を踏み入れたのは、高校2年の頃だった。

百崎(以下「もも」):「EXCELSIOR CAFFE Barista センター南サウスウッド店」が最初に働いたお店です。EXCELSIOR CAFFEの運営会社はドトールですが、スペシャティーコーヒー(生産国において栽培管理、収穫、生産処理、選別、品質管理が適正に行われた高品質なコーヒー豆)を出しているんです。(業態転換ではなく)新規でEXCELSIOR CAFFE Baristaとして出店した横浜で最初の店でした。

その後、高校3年のときにドトールの中では一番グレードの高い「CAFE LEXCEL」のCIAL桜木町店に移動しました。エスプレッソの豆もスペシャティーで、ブレンドもしくは3種類のストレートコーヒーから選べるという形態。設備も高価な店でした。

カフェに通い始めたのは中3からで、行き先はスタバでした。家にいると集中できないので、フラペチーノを飲みながら勉強していたんです。その頃はカフェの空間に惹かれていて、コーヒーは眠気覚まし程度の感覚でした。

きちんとコーヒーを飲み始めたのもスタバです。ドリップコーヒーのほかにプレスサービス(フレンチプレスで抽出するサービス。通常メニュー表には載っていない)があって、そこではじめて深入りのコーヒーを飲んだんです。

スタバには「コーヒーパスポート」というものがあります。コーヒーの産地や特徴が解説された手帳です。飲んだ豆を記入したりメモを取ったり出来るんですが、国とか栽培条件が変われば味も風味もまったくちがう、ということを知ったんです。飲んでいくうちに段々面白くなっていきました。これが原点です。いまでも「こんなコーヒーあるんだ」と驚くことがありますよ。

f:id:yanvalou:20191108145951j:plain

当初は専門学校に行くつもりはなく、大学に進むつもりでいました。

ただ、興味のあることにはひたすら打ち込むものの、興味のないことは理由がない限りやらないという自分の性格を考えたんです。経営には興味があるものの、関心のない教科のことを思うと、だらけて4年間過ごすのが目に見えています。

そこでコーヒーのことを調べた上で、いま通っている学校に話を聞きに行ったところ、自分が2年間ちゃんとやるのは、こっちだな、と。それで方向転換して専門に行くことにしました。

まちを作るプロジェクトも面白かったんですけれど、一番楽しかったのは、そこにできるコミュニティやつながりの部分だな、と感じていました。なによりコーヒーにどっぷり浸かってしまったこともありますし、コーヒーで行こうと突っ走っています。

とは言え、コーヒーだけだと上手く商売できないというか、「コーヒー+ α の方がいいな」と思うようにもなっていて。具体的にはまだ考えていますけど、伝えるツールとしてコーヒーをつかいながら、いろいろ出来たら良いなと思っています。

 

こだわったのは、誰でも立ち寄れる場所とつながりの場作り

 

www.instagram.com

もも:『Yokohama Coffee Festival 2019』の開催日は10月20日ですが、このプロジェクトを思い立ったのは5月末。だから準備期間は5ヶ月くらいです。

思い付いたきっかけは単純です。コーヒーフェスは東京とか湘南など、いろいろなところで開催されています。「なんで横浜にはないんだろう」という会話のなかから、「じゃあ、一緒にやろうよ」と言ってくれたのが、専門学校の同級生の宇野。宇野が仕事しているのが用賀の「WOOD BERRY COFFEE ROASTERS」という店なんですが、オーナーの木原武蔵さんが「うちも出店するし、協力することがあったら力を貸すよ」と後押ししてくれたので、「じゃあ、やるか」という話になりました。

こだわったのは「コーヒーが好きな人ばかりではなく、誰でも気軽に立ち寄れるイベントにする」こと。それから人と人をつなぐ場作り。

一般にフェスの主催者はキャリアが長い人か、どこかの社長さんということが多いです。でも僕はこの業界で経験が浅い方です。1発目がコーヒーフェス単独だと集客が見込めないと思いましたし、出店者が集まるかも悩みの種でした。

そこで音楽フェスなどと一緒にやれば、コーヒーフェスの集客プラス、たまたま来た人も誘い込めるので理想の形になるかな、と思いました。特に音楽フェスは野外なので立ち寄りやすくなります。保健所が厳しいので、やりやすさから言えば野外ではなく室内なんですが、なんとか説得しました。

とは言え、雨は心配でした。開催日が1週間早かったら、台風モロかぶりですよ(笑

やはり横浜といったら、中心はみなとみらい地区。だからフェスの会場はみなとみらいが一番良い、と思っていました。

しかし、ちょうどホッチポッチミュージックフェスティバルの方と知り合いで「いっしょに出来ることはないですか?」と訊いてみたところ、「いっしょに出来るかも」という話になって、ホッチポッチさんの開催地である横浜公園でやることになったんです。

www.arcship.jp

 

出店要請の基準ですが、よくしてくれているコーヒー屋さんに紹介をお願いしたり、声掛けしてもらったり。あとは友達が行った店で印象が良かった所にメールしたりしました。

地元のお店の中でもすごく好きなテラコーヒーさんには、「絶対出て欲しい」と思って声掛けさせていただいたんです。1回メールして返事がなくて「ダメかな」と思いつつ電話したら、あっさり「良いですよ。出てますよ」と即答。「ああ、ありがとうございます」みたいな(笑

www.instagram.com

 

ピンチ! 東京コーヒーフェスと被ってしまった日程

もも:最大の懸念材料は、同じ日に東京コーヒーフェスティバルとかち合ったこと。特に東京コーヒーフェスは2015年に始まった日本最大級のコーヒーイベントで、かなりの危機感を感じました。

tokyocoffeefestival.co

 

ただでさえ初めてのことだらけ。集客も推測できないし、出展者が集まるかも分からない。予想を立てて行くしかないという状態で、恐怖しかありませんでした。

お店は土日が稼ぎ時。わざわざ店を閉めて出店してくれたのに、人が来なくて売上が立たなかったらヤバい。めちゃくちゃ色々なところにメールしました。もちろん SNS もフル活用しました。Facebookページをいかに見てもらうか、と考えて「 I love Yokohama」というグループやコーヒーのグループなどに「今度イベントやります」と書き込んで宣伝しました。

そうしたら今までの活動でつながっていた大人の人たちや、コーヒー好きな人たちが拡散 してくれました。ありがたかったですね。

www.instagram.com

 

イメージにも気を遣いました。「来たくなるビジュアル」を打ち出さなくてはなりません。内容が良いのにチラシがダサくて町内会感があると、残念な結果になります。

誰かデザインを分かっている人にお願いしたい。なおかつ今回のプロジェクトのことも分かっている人の方が上手くやってくれそうだ、と思いました。

お金を渡せば外部に委託はできます。けれどいっしょに共感して、協力してくれる人の方が良かったんです。

知り合いが働いている関係で代官山の「Perch」によく行くんですが、バリスタをやりながらイラストを描いているErikaさんにこの話をしたら乗ってくれました。そしてめちゃめちゃカワイイロゴやビジュアルを作ってくれただけでなく、一緒にイベントを運営してくれることになりました。公式サイトのデザインは、ウェブ系の会社で働いている彼氏さんが、いっしょになって協力してくれたんです。本当に感謝しています。

 

f:id:yanvalou:20191108150119p:plain

Perch by Woodberry Coffee Roasters
住所:東京都渋谷区恵比寿南3-7-1 代官山島田ビル1F
TEL:03-6451-0446
https://woodberrycoffee.com/locations/

 

前日まで不安だったのですが、結局蓋を開けてみたら、千人以上の方が来てくれたようです(※チケットの実売数ではなく来場者数)。

とくに11時台は飲み比べチケットに列ができるくらい並んでくれて、ほんとうに良かった。下見したときは広くて余裕ができると思った通路が人混みで埋まり、市場のような賑わいになりました。そのお陰で「並んでみようかな」と思ってくれたお客さんもいたようです。

心配した東京のコーヒーフェスの方も、それぞれの会場がローカル色を持っていたので、食い合いませんでした。うちには割と横浜の人が来てくれたみたいですが、横浜と東京をはしごしてくれた人もいたようです。

www.instagram.com

 

 

コーヒーフェスの醍醐味は飲み比べ

www.instagram.com

 

もも:カフェに行っても1度に注文するのは1種類だけですよね。

注文するとき「この豆はこういう味だよ」と説明は受けます。飲んでみて確かにそんな気はするけど、1杯だけだと違いが分かりづらいですよね。

フェスの醍醐味は飲み比べだと思うんです。よそのフェスに行ったとき、飲み比べは面白いと感じていました。

実際インスタで確認したら「いろいろなコーヒーの飲みくらべが面白かった」という反応がありました。そこで気に入った豆を購入した来場者もいます。

たとえば蔵前のコフィノワさん、当日飲んで翌日さっそくお店に買いに行った方がインスタ上にいました。

www.instagram.com

 

出店者同士、それからお客さんもお店とつながりができた。コーヒーの楽しさを知ってもらうきっかけにもなったと思います。狙い通りのイベントになってくれて良かった。僕は当日までけっこう死にそうでしたけど(笑

前日は30分しか寝むれませんでした(笑 そのまま朝5時半に家を出て、1日運営して、夜7時に会場を閉めました。それからしばらく運転していなくて、おまけに30分しか寝ていないのに、タイムズカーシェアで車を借りて荷物を運び出して、イベントの後処理して。結局寝たのは3時でした。

こういうときは寝なくてもなんとかなる、と思いました(笑

 

飲食のなかで1番お客さんとの距離が近い業界

f:id:yanvalou:20191108150258j:plain

フェスの終了後も、百崎さんのコーヒー漬けの日々はつづいている。

もも:いま働いている「The AIRSTREAM GARDEN」には週3〜4日入っています。

airstream-garden.com

 

天候や湿度によってエスプレッソマシンの抽出時間がぶれますから、毎朝調整しなければいけません。ひたすら飲みながら調整するんですけど、そのあと学校に行っても「ドリップのレシピを検証する」などという授業だと、「もうコーヒーは……!」ってなります(笑

僕は、割と長続きしないタイプだと思います。でもコーヒーに対する熱は一向に冷める気配がありません。

カフェ業界が好きなのは、飲食のなかで1番お客さんとの距離が近いからなんです。

レストランはキッチンで作る人がいて、それを運ぶ別の人がいる。僕は自分がつくったものを目の前でお客さんに見てもらったり、味わってもらいたいんです。それで「おいしかったよ」などと会話できたら。そういう業界はなかなかないし、そういう仕事もなかなかありません。

僕がよく通っていたお店は3回行っただけで覚えてくれたんです。そこから段々お店の方と仲良くなりました。そのバリスタさんはフレンドリーで、サービスもよくて。そこで「コーヒー屋さんって良いな。僕もこんな人になりたいな」と思ったんです。

よく1番好きな店を聞かれますが、店にはそれぞれの色があって、バリスタごとに個性や接客スタイルが違います。だから答えられませんね。

それにバリスタはお互いをライバル視しないんです。レストランだと同業他者はライバルですけど、バリスタ同士は交流があって仲が良いんですよ。

この仕事が好きだと思える限りはずっとやっていきたいですね。自分の店もやってみたいし、飲食系の人はネットとかパソコン系が苦手な人が多いので、それを仲介するのもいいかな。得意なことを活かして仕事で来たら良いな、と思っています。

 

インタビューを終えて

f:id:yanvalou:20191108150329j:plain

先日取材したアドレスホッパーの野口福太郎さん。22歳の彼も百崎さんと同じZ世代(1996年以降に生まれた世代)だった。

www.yanvalou.yokohama

この世代には、ノマド指向とコミュニティー指向というふたつの傾向が見て取れる。福太郎さんがノマド指向だったので、コミュニティー指向の若者に話を聞いたら面白いだろうという思惑もあって、百崎さんにインタビューを申し込んだ。

コーヒーに限ったことではないかも知れないが、10年代のカルチャーでは「ローカル」とか「コミュニティー」というキーワードが好んで使われる。百崎さんは、まさに今の時代を体現する存在だな、と感じた。

百崎さん本人は「人に仕事を頼むのはすごく苦手。本当は代表的な立場は向いてないと思いつつも、結局いつもやっていて。『ミニヨコ』の市長も自分からやりたいと思った訳ではなくて、推薦されて乗せられたんです」と語る。しかし書き手の僕と facebook で共通の知人が5人もいて驚いた。小4からのコミュニティー活動歴は伊達ではない。これが Z 世代か。