メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

ミステリー作家・倉井眉介さんが語る小説書きの作法とは?

f:id:yanvalou:20191129122233j:plainども。檀原(@yanvalou)です。

10月〜11月にかけて、横浜市では図書館主催でさまざまなイベントが行われています。

その一環として、『怪物の木こり』で今年度の「このミステリーがすごい」大賞を受賞した戸塚区在住の作家・倉井眉介さんの講演会が開かれました。


【2019年・第17回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作】 怪物の木こり

このブログ、一応ライターブログですから、この手のイベントをパスする訳にはいきません。

倉井さんはこれがデビュー作。まだ1作しか書いていないのにも関わらず、大きな会場でトークさせてもらえるなんて羨ましい(倉井さん自身、驚いたそうですが)。

そんな倉井さんの講演内容を、ざっくりご紹介します。
(長いので2回に分けました。メインは1回目です)

www.townnews.co.jp

写真撮影禁止だったため、当日の画像はありません。

以下、倉井さんの語りでどうぞ。

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 【目次】

 

デビューするまで

デビュー作の『怪物の木こり』が出たのが今年の1月12日、その2ヶ月後にこの講演会の話を頂きまして、「まだ1冊しか出していないのに」とびっくりしました。

僕は34歳で賞を取ったんですけど、33歳までフリーターで一時期ニートだったこともある。デビューした後のことを話そうと思っていたのですが、「賞を獲るまでの話をして欲しい」とのことで、僕個人にではなく、賞を取った一人の人間の体験談に興味が集まっているんじゃないかと思いました。

だから今日は賞を取った一人の人間の体験談を話します。小説家になろうとした場合、どういう壁にぶち当たるのか。どうやって賞を取ることが出来たか。皆さんが賞を取れるくらい、自己分析を元に話して行きたいなと思います。

 

 

 どのようにして物語を作り込んでいるか

物語の作り方ですが、僕の場合は最初にテーマか設定を決めます。

テーマを先に決めた場合は次が設定、先に設定を決めた場合は今度はテーマ、どっちが先かは分からないですけど、僕の場合は間違いなくこのふたつから始めます。

テーマとは、例えば夢を追うべきか否か。あるいは自由意志って人にあるのだろうか、とか。生命ってどんなもんでしょうとか。こういうのがテーマですね。

それに対して設定というのは、例えば主人公のキャラクターです(*ライター註:物語の舞台となる時代、場所、人間関係なども設定に含まれます)。

なぜここから決めていくかというと、物語の軸になるのがこのふたつだからです。


1. 設定

【設定→テーマ】

例)『怪物の木こり』

設定:
『怪物の木こり』は主人公のキャラクターから決まっていったんですけど、この主人公は、サイコパスと言われるタイプの人間なんですね。

サイコパスの一つの原因として、脳神経機能の問題説があります。だから神経を脳チップでコントロールしたら、現実にサイコパスがつくれるんじゃないかと思い、このキャラクターが出来ました。

▶テーマの決め方:
『木こり』の主人公は強盗に遭って、脳チップが破損することで人の心を取り戻します。
事件前後の違いにこそテーマがないといけない

じゃあ「普通の人の幸せ」ってなんだろう、と考えたんです。


2. テーマ

【テーマ→設定】

例)執筆中の新作

テーマ:
自由意志(人は本当に自分の意思でものごとを選択しているか)。
最近の学説では「人間は自分で選択していないんじゃないか」とされる。

▶設定の決め方:
自由意志をテーマにしたい訳だから、間違いなくそれに疑問を持っている人間を設定しないと話が作れません。

殺人犯が人を殺しておきながら、でもそれは自分の意思じゃないと主張したら。しかもそれがカウンセリングしたら根拠があるぞ、となったら話が盛り上がる。

ただ主張しているだけだったら、妄想とあまり変わらない。だから犯人を捉まえようとする主人公の方も自由意志があるか疑問を持つような人間にしたい

殺人犯の子供を主人公に。なんでそうしたか。
→殺人犯の子は遺伝的に殺人犯になってしまうんじゃないか
サイコパスである父親は「自由意志がない」と言っている。「もしかして自分もいつか殺人を犯してしまうんじゃないか」と心配させれば、自由意志のテーマに掛かる。

主人公は心配しながらも運命にあらがう。しかし弟から「自分は人を殺してしまったかも知れない」という電話がかかってくる。
こうすれば主人公と同じ遺伝を持つ弟ですから、自由意志はあるかどうか気にしながら、事件を追えます。


【注意点】事件とドラマを関連させる

いろんな賞の選評でみかけるのが、「事件とドラマが全然関連してない」という批判ですね。かならずテーマと事件は絡ませる。「事件を追いかけることが、テーマを追求すること」につながるように話を作る。

設定とテーマは必ず関連する。だから最初にテーマと設定を決める感じですね。


3. 役割に見合った登場人物

たとえば『怪物の木こり』で主人公の友達の杉谷君は、主人公と同じようにサイコパスの悪人なんですけど、脳の説明役と同じ役割なんです。さらに主人公の邪悪さの鏡としての役割もあります。恋人のユリさんは主人公を人間的に成長させる役を担う。要するに善と悪、明と暗ですね。


4. 対立構造

物語を作るときはコントラストを意識して物語を作っていきますね。

3と被りますが、『怪物の木こり』でもう一人の主人公は女刑事なんですね。城戸嵐子と言いますけど。嵐子の方は性格的にも悪人の事情に多少同情することはあっても、基本的には悪を許さない。捜査の手は絶対に緩めない人間として描いていまして。

この主人公の先輩刑事は逆に、優秀ですけど犯人の事情に同情しちゃって手を緩めちゃうような所があるんです。嵐子と対になっている訳です。

主人公が新しい人間に生まれ変わろうとする未来にあって、むしろ嵐子の方は過去の罪を断罪する役割。未来と過去を逆にしている訳です。真逆にしていくと対立構造が生まれますから、これが話の盛り上がりを作っていくと思うんですよね。コントラストや対立構造は、たくさん作っていくのが良いと思います。

 

【上記以外の作り方】

小説を趣味程度に書いてみようかなという人がいたら、普段思っていること(関心があること)から着想しても良いです。

例)煽り運転
煽り運転の犯人をボコボコにするストーリーにしようと思ったら、ボコボコにするシーンから作っていけば良いんですね。ミステリーにするんだったら、ボコボコにするのは主人公ではなく、犯人役にするのが良いかもしれません。それを追いかけるのが主人公。

最初は煽り運転ということは隠しておいて、人通りの少ない道路の上でいきなり誰かが殺されているという連続殺人事件が起きている。なんだろう、と追いかけていったら、犯人は煽り運転でかなり格好悪い姿を恋人に見せてしまって振られてしまった。それで煽り運転の奴に復讐しないと気が済まない。だけどあのときの犯人が分からないから、同じような煽り運転者をボコボコにする。でも煽られるということはそうそうないですから、自分から仕掛けていってわざと煽らせる。そして連続殺人を犯す。そんなストーリーも出来るかも知れないですね。

1回煽り運転の犯人をボコボコにしたら、気持ちよかったんでもう1回やったら、やめられなくなった。こちらの方が気持ち悪くて良いかもしれないですね。

文章を書くのは大変なので、趣味でやるんだったら書きたいシーンだけ書ければ良いかもしれないですね。ボコボコにするシーンだけ書いて、設定だけは頭の中。

 


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テクニック・小技

1. 展開の早さ

なにかで読んだことがあるんですけど、2時間くらいの映画をカットして1時間半くらいにしたら、つまらなかった映画が面白くなるというんですね。要するにポンポン展開していった方が面白くなるということだと思うんです。

だから『怪物の木こり』でも「この辺で良いかな」という所でやめずに、自分が出来る限界まで展開を追い込んでいったんですね。

賞には応募規定枚数というのがありまして、字数稼ぎで意味のないシーンを入れて稼いだりすることがあります。それは厳禁です。必要なのはリーダビリティーで、賞を取るには欠かせないと思います。

あとで刈り込んで短くしていくのは大変ですが、とにかくなるだけ膨らませてどんどん展開していくというのが、一般の人だけでなく、選考委員にも受けると思います。

 

2. 章の終わりに次章の予告を入れる

「ページターナー」というんですけど、次の章のことを3行くらいで簡単に説明するんです。そうなると読者は次の章が気になるはずです。テレビでよくありますよね? かなり効果的な方法だと思います。

 

3. 会話文を多めにする

会話で説明できることは会話で説明するように意識してます。地の文を読んでない人がいるんですよね。

会話ばかりだと幼稚と言われちゃうんですけど、より多くの読者を狙うなら、地の文は少ない方が良いです。もちろん程度問題ではあります。

 

4. 登場人物は同時に3人以上出さない

一度に出てくる人数を多くすると思考の整理や明示が大変なので、2人で済むのなら2人にしましょう。

3人以上いるとそれぞれが考えてることがあって、ずっと沈黙のままじゃまずいんで、ちょっと会話を挟んだりする。そうするとパンクして、混乱してくるんですね。

たとえば東野圭吾さんは、なるべく1人で済ませよう、2人、3人以上にしないようにしようとしている気がします。

 

5. 冒頭は大事

『怪物の木こり』は出だしから、盛りに盛ってます。よくあるのが「主人公の日常」から始まる展開ですけど、それは止めた方が良い。いきなり事件が始まってるくらいのところからスタートするか、さもなきゃともかく「この後どうなるんだ」と期待させるようなことをやっていくんです。

『怪物の木こり』も初っぱなから家宅捜査が始まって、普通とは違う主人公が出てきて「こいつが悪役かな」と思ったら、いきなりそいつが襲われる……という具合に出だしから畳みかけてくる。

小説の冒頭は、作品の作法を知る部分。賞の選考委員も最初の数ページで分からなきゃ、もう読んでもらえないって言われてるんです。だからとにかく冒頭が大事です。

 

6. 象徴を登場させる

物語全体を象徴するものを出した方が良いと思います。『怪物の木こり』だったら、木こりがそうですよね。『デスノート』でしたら、赤いリンゴが出てきてました。

象徴するものを出しておくメリットは、タイトルが決めやすいことです。表紙も作りやすいので、商業的にも違いますね。映像化されたとき、映画のポスターも作りやすいと思うんです。

 

7. 叙述トリックは使わない

叙述トリック」って知ってますか? 読者になにかしらの事実を隠して物語を作っていくという作者が仕掛けるトリックの一種です。すごく映像化しにくいので、僕は叙述トリックはほぼ使いません。たとえ使うとしても映像化が可能な叙述トリックしか使わないようにしてます。とにかく映画化を狙っているからです。

 


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心理面

以下、当日の内容に従い Q & A 形式でまとめます。

 

【作家になるために努力をつづけられた要因とは?】

小説家に限らず、なにかしらのプロを目指す人は将来の不安が最大の敵になるんじゃないかな。不安に囚われると頭がパニックになってきて、考えがまとまらなくなってくる。そうすると話なんか考えていられない状況で、努力をしようという気があったとしても、やる気が湧いてこない。

夢への情熱とか根性で乗り越えられると思う人もいるかも知れません。でも正直、そんな甘い物じゃない。

努力をする気が起きない状態。やろうという意思はある。でも身体は動かないでいる。夢を追うと言いながら、パチンコしちゃったりとか、口では夢を追うと言いながら、不安に飲まれちゃってるんですね。挫折するのは、このパターンだと思う。

そのくらい不安というのは厄介で、どうすれば不安に対処できるか。ここが夢を叶えられるかどうかの分かれ目なんでしょう。

対処法はないだろうと思う。そんなものがあるのなら、みんな夢を叶えている訳ですから。僕の場合は不安に耐えられる理由があったんです。

それはシンプルに自信があったからなんです。かならず夢が叶うと思っている訳ですから、常に目の前にニンジンがぶら下がっている状態。だからさほど努力が苦ではないという感じでしたね。

そうは言っても不安に襲われるときはあるんです。それは主に父親から「将来どうするんだ」と叱られたとき。一応反省するんですね。ハローワークで仕事を探したりするんですけど、30歳を過ぎたあたりから、職歴なしは世の中ではもう暗い未来しか待っていない。ハローワークにいるとき、ちょっと気持ち悪くなりましたもん。すると、前述の「話なんか考えられない状態」に陥ってしまいます。

そんなときアイデアノートを開きます。ノートと言ってもパソコンのファイルですけど、そこにはプロを越えるようなすばらしいアイデアの数々が記されているんです。そうすると「いま就職なんてしている場合じゃない。早くこれを形にしなければ」と思う訳ですよ。不安は消し飛んでいるんです。

客観的にみて自信過剰に見えると思うんですけど、プロを目指す人はおそらく自信過剰な人が多いと思うんです。自信がなくてもプロを目指すのはフィクションの世界だけ。現実では自信満々の人がプロになっていく。これは小説家に限りません。

不安に耐えられるのは自信満々な人だけ。ここが境目で「自分は絶対プロになれる」と思っているかどうか。僕みたいに「年間ベストを越えてるな」くらいの自信を持って、はじめて不安に耐えられると思うんです。

人生かけて夢を目指すというのは、かなり危険です。僕も悪い事例です。絶対プロになるという自信がある人だけが、目指した方が良いと思うんですよね。


*自信がない人が、プロを目指しちゃいけない訳じゃない

仕事に就いて生活をしっかりさせつつ、ちょっとずつ書きつづけているうちに、いつの間にかプロのレベルを越えちゃってるぞ、と手応えを持つこともあると思います。

実際、2019年の乱歩賞を取ったのは、史上最高齢(58歳)の神護かずみさんでした。

フリーターだとか言っても、僕も1回就職してます。


【作品を仕上げるのに、一番苦労したことは?】

とにかく文章を書くことです。時間がかかって疲れるし、目が痛くなって、頭が痛くなって、首が痛くなって、最終的には全身痛くなってきますから。みなさんが思っている50倍くらい文章を書くのは大変で、とにかく疲れます。でもそれに耐えられたから、僕はやってこれたのかなと思います。

ミステリー系の賞の応募総数は200から400位ですね。世の中に小説で暮らしている人が何人いるか分かりませんが、たぶんすごい数いると思うんですよ。にもかかわらず賞の応募総数がたった400しかないなんて、すごく少ないと思うんですよね。

なぜこんなに少ないかというと、やっぱり完成させるのがとにかく大変だからだと思うんですよね。賞に応募したときも締めきり前の2週間ぐらい、ほとんど寝ないでずっと書き続けてましたから。


【夢を叶えるためにどんな努力をしてきたか?】

特別な努力はしていません。

ほかの作家さんがしているように、色々な物語に触れるようにはしています。ただ僕の場合は、小説よりも海外ドラマとか映画、漫画、アニメを良く見ます。ストーリーがドラマ的と言われるのも、たぶんそのせいですね。小説は数えたことがないですけど400冊くらいしか読んでない。作家としては少ない方だと思うんですね。

物語を見ると言っても、漠然とは見ません。かなり理屈屋なんで、相当分析しながら見ている方ですね。大抵の物語は問いかけなどがありますが、その問いかけをかなり真剣に考えます。

「愛はすばらしいよね」ということだったら「果たして愛って本当にすばらしいのかな? 愛ゆえに殺人事件が起きたりもしますし、自殺する人もいますよね。不幸の原因にもなっている。必ずしも良いことばかりじゃない。そういう風に自分なりに分析して見ます。

『怪物の木こり」のテーマが「幸せとは何か」にしたのも、たぶんそういう積み重ねがあったからこそ思い浮かんできたんですね。

 

次回に続きます。


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