メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

女子会を仕切っているうちに、アジア料理教室の先生になってしまった女性の話

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2015年5月28日に取材した銀座の料理教室の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
手元に残ったメモを元に新規で記事を書き起こしました。取材元の確認は取っていないことをご了承下さい。
内容は取材当時のものです。

 もてなし好きの坂本美雨さんの料理教室は、ホームパーティーから始まった。いまはなき某女性限定SNSで「女子会しませんか?」と呼びかけたのだ。SNS内の気心知れた集まりだったということもあり、すぐに10人ほどの常連ができた。週末は毎週のようにパーティー。高校時代から料理教室に通っていた坂本さんの出す料理は評判が良く、やがて会は料理教室にシフトしていった。

 世の中には自宅を開放した料理教室が、それこそ星の数ほどもある。その多くは主婦が主催しているが、趣味とは言い難いほど熱が入っているケースが少なくない。著名な料理教室で腕を磨き、資格を取り、ホームページやブログでしっかり宣伝する。プロフ写真はプロが撮っていたりもする。押しの強い先生、キャラの立った先生が多いのも特徴だ。

 しかし坂本美雨さん……坂本龍一の娘と同じ名前だ……は例外的な存在だ。自宅教室が銀座2丁目という好立地にありがながら、ひじょうに控えめなのだ。見るからに「内省的な文化系の女性」という印象の彼女は、しかし料理に対して情熱的だった。

 ブログや公式サイトはおろか、名前さえついていない教室だが、現地で味を学ぼうと決意。台湾、ベトナム、タイに長期滞在し、現地の料理教室で遊学したという。
「アジア料理の、日本にはない風味が好きなんです。でも日本で習うと高い。食材が高いので、3品くらい教わっただけで良い値段になってしまう。だったら現地で勉強しよう、と思ったんです」

最初にはまったのは台湾だった。観光で訪れたところ、日本人に対する現地の人のやさしさや、比較的日本語が通じること、そして安全で異国情緒が味わえる点が気に入ってしまった。

「向こうから話しかけてくれるんです。とくにおばあちゃんたちが親切で。

 ホームステイもしたんですが、ホストマザーが料理上手で随分教えてくれました。印象に残っているのは、チヂミのようなネギのケーキ。日本ではなじみが薄い粉物ですが、現地ではおやつとして食べられています」

 彼女は運に恵まれていたのだろう。一般に台湾人は料理をしないと言われる。共働きが多く、屋台やリーズナブルな食堂が充実しているため、外食が多いのだ。若い女性の多くは料理が出来ない。料理上手なホストマザーに当たったのは、引きが強い証拠だろう。

 台湾暮らしは1年半ほどつづいたという。いまも月に1度は訪れるそうだ。

 こうした経緯もあり、教室は台湾料理を教えることからスタートした。その後ベトナム、タイ、シンガポールという具合に範囲が広がっていった。

 タイには2週間くらいの滞在を飛び石的に繰り返しながら、延べ半年ほど現地の料理教室に通った。ベトナムには短期留学(と言っても語学ではなく、やはり料理メイン)で、やはり半年くらい滞在している。坂本さんが通った教室は日本人が少なく、欧州人や韓国人が多かったという。

 話の流れで各国料理の特徴を聞いたが、印象に残ったのはシンガポール料理だ。

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プラナカンのショップハウス(上)と邸宅内部(下)

 シンガポール多民族国家だが、そのなかでも「プラナカン」と呼ばれる華人の文化がひときわ目立つ。彼らの料理は「ニョニャ」と呼ばれるが、日本では耳馴染みのないハーブや野菜をふんだんに使う。筆頭に上げられるのはパンダンリーフ(和名:ニオイタコノキ)である。東南アジア料理だが、パクチーは使わない。しかし中華料理に欠かせない八角などの香辛料はマストアイテムである。代表的な料理として、坂本さんはチキンライス(タイのカオマンガイに似ている)やラクサ(甘辛い麺料理)を上げた。

「珍しい食材を使うと驚かれますが、そこが支持されているのかな、と思います」と坂本さん。

 教室の顔ぶれはリピーターが多く、毎回10〜17人くらいが参加する。年齢層は20代前半〜40代後半で9割が女性だ。

 カリキュラムは毎回単発なので、間隔が空いても参加しやすい。年になんどか顔を見せるプロのベジタブル・マイスターやソムリエもおり、そのときはキッチンがひじょうに盛り上がるそうだ。

 レッスンは13時〜16時(ときには16時半)までと少し長めである。これはレシピの数が多いためだ。

 にもかかわらず、会費が格安に設定されているため、15人前後が採算分岐点だという。女子会が発展した教室なので、商売っ気がないのだ。坂本さんは「赤字にさえならなければ構いません」と鷹揚な態度を見せる。

 しかし料理の腕は本物で、筆者の知人の台湾人男性が参加したところ、「故郷の味だ」と感動していたほどだった。

 そう、故郷の味。坂本さんの教室で人気があるのは、レストランで出すようなごちそうではなく、家庭料理のレシピなのだという。生徒が自宅で再現しやすいからだ。

 食材に関しては必ずしも入手が容易ではないが、最近は大久保や池袋などで本場のものを見かけるようになった。ただ調味料だけは「現地で調達しています」と坂本さんは語る。

「通いやすい形で開催している教室です。ここをきっかけにアジアの料理を知ってもらえれば」。

 平日はOL だという坂本さん。「本当にすごい人は目立たない」を地で行く女性だった。

世界を旅する料理教室(せかいをたびするりょうりきょうしつ)
(※「台湾を旅する料理教室」などその都度、名称変更あり)
主宰者:坂本美雨(さかもと みう)
所在地:東京都中央区銀座2丁目
ウェブサイトなし:facebookや各種イベント告知サイトで確認のこと