メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

地べたという異界(その1)

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ども。檀原(@yanvalou)です。

先日アップした「同年代のホームレスに身の上話をきいた結果……!」シリーズの番外編をお届けします。

www.yanvalou.yokohama

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メディア媒体に掲載するコンテンツであれば削ってしまうところなのですが、ここはブログ。
「ライターたちが記事を書くとき、どんな話を削っているのか」という舞台裏をお見せする意味も込めて、今回の番外編を公開することにしました。

実際のところ、どこかで聞いたような話ではあるのですが、実際にそれを体験した本人から聞くのは生々しく、印象に残りました。

2回に分けてお届けします。

* * *

報奨金

Nさんと話していて初めて知ったことがいくつかある。
その筆頭は「加賀町警察(中華街に位置する所轄署)の管轄のなかでJR関内駅周辺からの通報が一番多い」ということだった。
Nさんは6、7人の警察官と面識がある。彼は通報の多い関内駅北口に1日中いるので、重宝がられているのだ。特に仲良くなった警察官の1人から「なにかあったらすぐお電話下さい。ご協力お願いします」と言われているそうだ。

警察官と話すようになったきっかけは、車上荒らし捕まえたことだった。

販売員を始めて半年くらい経った2014年の七夕の日の、夕方5時頃のことだった。Nさんがいつもいる場所のすぐ目の前の角地に1台の車が止まっていた。その角地の2階でビストロ酒場を経営している人物の愛車で、後部座席には夫の戻りを待つ妻が座っていた。
そこへ30代後半とおぼしき男が現れ、突然助手席のドアを開けた。無造作に置かれたバッグに目をつけたのだ。後部座席には注意を払っていなかったのだろう。
「泥棒! 誰か捕まえて!」
Nさんが声のする方向に視線を走らせたとき、バッグを掴んで逃げていく男の後ろ姿が見えた。とっさに後を追いかけた。男は最初の角を曲がり、とある雑居ビルに駆け込んだ。
そのままビルの中まで追跡することには躊躇したNさん。入り口で立ち尽くしてしまい、かといって立ち去ることも出来ず、ロビーの辺りを覗っていたという。すると外の様子を見ようとした犯人が階段の影にいることに気づいた。相手が顔だけ出したところで目が合ったのだ。お互い驚いたが、相手が先に動いた。逃げだそうとして走り出したところへNさんは両手を大きく広げて立ちはだかった。突き飛ばされ尻餅をついたが、それでも相手の胴回りに抱きついてなぎ倒した。揉み合っているところを通報してくれた人がいて、無事犯人は逮捕された。

正義感からしたこの活躍は、思わぬ副産物を産んだ。
「怪我までさせちゃって済みません」と、被害者が5万円もの謝礼を渡してくれたのだ。この方とはいまでも会うと挨拶する間柄だという。

警察からも報奨金が出た。さらにここだけの話になるが「県から診察料として3万円出ています」と言って、病院のおつりをさりげなく渡された。さらにこの件のお陰で、『ビッグイシュー』の路上販売していてもお咎めなしだという。

 

タクシーで移動するホームレス

その後もNさんは、なんどか警察に協力してきたという。

たとえば2016年11月の話。
関内駅北口の歩道上に地下商店街に抜けるエレベーターがある。その手前に、かなり年配の路上生活者が居着くようになった。やって来たのは半年ほど前からで、傍らにゴミとしか思えないがらくたを置いている。その男性が冷たくなっているのを、朝の巡回中の警備員が発見した。ホームレスであるが、身元を確認しない訳にはいかない。そこで警察官がNさんのところに聞き込みにやって来た。

「ここで生活してた人、知ってる?」
「あのおじさんなら知ってるよ」
「亡くなってたんだけど」
「え!? 昨日の夜も話したよ。なに、亡くなってたの? ほんと?」
「え? 昨日の夜話したの?」
「うん。話した、話した」
「どんな話したの?」

Nさんは、その老人のことを知っている限り話した。

「このお父さん、夏頃みなと赤十字(中区新山下の大病院)に入院してたよ」
「よく知ってるね」
「うん。そこのお父さんと仲良いから。そのお父さん、たしか南区で生保受けてたはずだよ」
「さすが詳しいね」
「役に立つなら来てよ。息子さんが1人いるって言ったけど、連絡先は知らない。ただケースワーカーと息子さんが訪ねに来てたな」

この老人は路上で生活していたが、じつは生活保護を受けていたらしいという。Nさんも詳しいことは知らないそうだが、生保を受けていても外で寝ている人は何人かいるようだという。あくまでも形式上は住所不定にはなっていないが、なんらかの事情があって、いまの生活をケースワーカーが黙認したのではないか、という。この老人の場合は、家がゴミ屋敷で住めなくなり、そのまま路上に居着いたのだそうだ。

ただ生活保護受給者という身分上、ケースワーカーが息子さんの連絡先を把握しており、現状を確認するため定期的に様子を見に来ていたようだ。他人のプライバシーに関わることなので、Nさん自身どこまで踏み込んで良いのか分からず、曖昧な点が多いという。しかし腰が半分曲がって小柄でやせたこの老人が、ホームレスとしては裕福だったことは間違いない。
「ちょっと出かけてくるよ」
と言って目の前の交差点でタクシーを拾う姿を、Nさんは目撃しているという。

もちろん道行く人々は、そんな事情は知らない。
「お父さん大丈夫? 良かったら食べて」と差し入れを置いていく親切な人が、何人もいたという。
「世の中は不思議ですね。皆さん、そんな実際のことは分からないんですよ」

(つづく)