nyonyacooking.com
キッチンカフェ 満雲天 西森昭光さん
2015年の上半期に取材した東京都町田市のカフェ「満雲天」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
2014年6月に現在地に移転した「満雲天」は、テラス席も併せて19席というこじんまりとした空間だ。しかしこの大きさだからこそ醸し出せる居心地の良さがある。それは風変わりな店名にも現れている。
「満雲天」はすべてのお客様が、「天」国のような、ふわりとした「雲」のような心地よい空間で、身も心も「満」足していただけるような唯一無二のお店、という意味だそうだ。
大のカレー好きが高じて西森昭光さんがキッチンカフェを開店したのは、2012年のことだった。
「もともとカレーが好きで、常に美味しい店を食べ歩いていました。そうするとスパイスがガツンと来る瞬間があります。本物のカレーに出会った瞬間ですね。本能的な感覚でうまく説明できないのですが、食べるだけではなく、自分でスパイスを調合して本格的なカレーを作ってみたいと思うようになったんです」
カレーに出会う前の西森オーナーは、普通のサラリーマン生活を送っていたと言う。調理専門学校などで学んだ経験はない。スパイスの調合はすべて独学だ。納得いくまで試作に試作を重ね、ついにオリジナルのカレーを作り出した。一口味わってみると何層にも折り重なった香りが口から鼻へと抜けていく。
「今のところカレーのルーは4種類。あまり種類を増やすとお客様が目移りしてしまいますから、これくらいがちょうどいいと思っています」
その上、更に種類を絞り込み、カレーのレギュラーメニューは2種類のみ。あとは休日限定でグリーンカレーやレッドタイカレーを、寒い時期にスープカレーを提供する程度に留めているという。
あくまでお客様本位に徹しているのだ。カレー好きが高じて店を出したというのに、ずいぶん謙虚ではないか。趣味を仕事にした場合、こだわりが足かせになって失敗するケースは少なくない。その点、西森さんは冷静である。
1人客はともかく、カップルや友人同士、家族連れなど大勢のグループが来店する場合、その中の誰かがカレーを嫌がる場合がある。駅前店であればこうしたケースは少ないのかも知れないが、郊外に立地する場合はその限りではない。そうしたお客様には、パスタ(それからタコライスやビーフストロガノフ)も用意されている。
それならば、いっそレストランとして出店した方が良かったのではないか。筆者の愚問に、西村さんはこう答えるのである。
「カフェにした一番大きな理由は、自分のコーヒーへのこだわりでしょうね。カレー、パスタに加えてコーヒーも出したいという思いが最初からありました」
カレー専門店だと客層を極端に絞り込むことになる。カレーを「看板メニュー」という形で提供しつつ、コーヒーにもこだわるキッチンカフェという形で勝負するのが、西村さんの作戦である。
そのコーヒーだが、ハンドドリップのほかに、熱を加えず水で抽出することによって珈琲の爽やかな風味を長く楽しむことが可能な水出しコーヒーを、銅製マグカップで提供している。よく知られているとおり、水出しコーヒーは抽出に8時間かかる。良いもののためには手間を惜しまない。味覚へのこだわりは、ここでも際立っている。
「水出しでやっている店は少ないですからね。自然と他店との差別化が図れた格好です。ここでしか飲めないコーヒーを楽しんで頂きたいですね」
前職こそサラリーマンという西村さんだが、学生時代から飲食店が好きで、ハンバーガーショップ、ファミレス、カフェ、レストランなどで通算5年間アルバイトしていたという。料理の基礎も、そのころ自然と覚えていったそうだ。
現在も料理の研究には抜かりがない。食材はできるかぎり国産にこだわり、化学調味料は一切使わない。自慢のカレーは時間をかけてじっくり煮込み、寝かせ、熟成させる。料理やコーヒーなど口にするすべての食品にはプロ仕様の据付型浄水器の水を使う。そうした細かな積み重ねの上で、新作メニューも考える。根っから料理が好きなのだろう。
手間をかけた料理やコーヒーを幅広い客層に味わってもらうため、1人客から子ども連れのご家族まで、誰でも楽しめる雰囲気づくりにも気を配っているそうだ。近隣住民の憩いの場は、コーヒーとカレーで和める空間だったのだ。
さらに店主自身の趣味である自転車乗りを応援するキャンペーンや、ウォーキングで立ち寄るお客様に抽選で食事券が当たるイベントなど、蒼穹ひろがる郊外らしい企画も随時開催している。ちょっとした遠出の折に立ち寄ってみたら、楽しいひとときを過ごせるに違いない。
KitchenCafe[満雲天](きっちんかふぇ まうんてん)
主宰者:西森昭光(にしむら あきみつ)
所在地:東京都町田市広袴3-1-16 2F