MOVE CAFE 原和美さん
2015年5月12日に取材した新宿のカフェ「MOVE CAFE」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
新宿東口、とくに靖国通りから新宿通りにかけての一帯は長らく文化の発信地だった。文化人はバーやカフェに吸い寄せられる。そのせいか、このエリアには個性的な飲食店がひしめいている。特に3丁目近辺は名の知れた老舗もあれば、活きのいい新規参入店も後を絶たない。しかしこの一角には決定的に欠けているものがあった。カフェである。どちらかと言うと男性的なイメージのある新宿という町。ここにはカフェが足りなかった。そんな場所にカフェをオープンしたのがTable.Incの代表・原和美さんである。
同社は新宿3丁目と5丁目の界隈でカフェを4軒営業しているが、1号店となったのがこの「MOVE CAFE」だ。若干せせこましいエントランスを抜け、ちょっと急な階段をあがると、かわいらしくてモダンな空間が待っていた。繁華街で歩きまわったとき、ほっと一息つくのにピッタリだ。
「カフェ好きで、ずっとカフェで働いていました」と原さん。
原さんの原点となったのは、2000年頃働いていたという渋谷のカフェだ。スターバックスが日本に上陸して少し経ち、カフェブームが始まったばかりの頃だったという。
その会社は現在の会社同様、何店舗かカフェを経営していた。彼女はそこで新店舗の立ち上げスタッフとして働き始める。
「そのお店が大好きでした。働くスタイルやお客様たちも含めてすべて好きで、自分で立ち上げるなら似たようなお店にしたいと思ったんです」
新規出店にあたって、場所のリサーチは綿密に行った。そのときに浮上したのが新宿の5丁目。「MOVE CAFE」をオープンした8年前、新宿はカフェの空白地帯だった。原さんの読みはあたり、先行者利益のお陰もあって「MOVE CAFE」は快進撃。次々と店舗が増えていき、4店舗からなるグループ構成となった。
グループ内の店舗は多少コンセプトやターゲットに違いがある。
「MOVE CAFE」は「わくわく、どきどき、心動かされる感じ」というのが基本路線。ターゲット層は大学生など10代後半から20代前半の若い女性だ。
「サロカフェ」は「深い森」というフィンランド語が由来で緑がいっぱいの空間設計。20代前半から30代中盤の客筋を抱える「飲めるカフェ」だ。
「楽しいこと」と「落ち着けること」という一見相反することを詰め込んだのが「コトカフェ」で、抑え目にした場作りが功を奏し、年配のお客様もお見えになるなど幅広い年齢層から愛される場所となっている。
「WALL」は「壁紙が変化するように、お客様の心も変化させる」というコンセプト。「名は体を表す」という言葉がある通り、キッチンカウンターの側面が変化に富んだ壁紙に彩られているのが楽しい。
店舗ごとに個性はあるものの、全店共通するカラーのようなものはある。それは「自分が食べておいしいと思えるものを出す」という理念が徹底しているからだ。Table.Incでは年2回の新作試食会を社内で行っており、メニュー開発も含めた店づくりをスタッフ全員で行うのを心がけているそうだ。原さんは「自分が提案したメニューを繰り返しオーダーしてもらえるとうれしい」と語る。
カフェを続けていくなかで苦労したこともあった。ひとつは「Move」をオープンする前、2年間共同経営でカフェを経営したパートナーと意見が食い違い、パートナーシップを解消したことだった。
もうひとつは「Move」の成功をうけて2店舗目を開店したとき。オープンが東日本大震災の10日前だったのだ。店を開けても来客はなく、仕入れも滞ってしまった。スタッフは1人だけ残して休んでもらい、単独で店を回してもらう有様だった。それでも店を閉めるのは1日だけにした。
「常連さんに助けてもらいました。手伝ってくれた人もいて感激しましたね」
状況は2週間ほどで改善され、何とか乗り切ったという。
原さんのカフェが常連さんたちから支持されているのは、「お客様第一に」という姿勢の賜物だろう。
「お客様がよりハッピーになってくれる場所をつくっていきたい」。
ゆるさと華やかさが同居した店内と原さんの人柄とが重なって見えた。
MOVE CAFE(ムブカフェ)
経営者:原和美(はら かずみ)
所在地:東京都新宿区3ー9ー5ゴールドビル3階