メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

育児疲れの入院がきっかけで、絵を描き始めた主婦の話

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2015年7月9日に取材した横浜市栄区の「小さなパステル画」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。

 絵画の癒やし効果。

 この数ヶ月間、絵画教室の取材を重ねているが、絵画と癒やしの結びつきを直接感じたのは伊藤ゆうこ先生の「小さなパステル画教室」が初めてだった。

  パステルは粉末状の乾いた顔料を粘着剤で固めた画材で、脂分の少ないクレヨンのような感じである。鉛筆やクレヨンのような使い方もできるが、カッターナイフで削って粉末状にし、指でぼかし気味の線を描くことも出来る。

 伊藤さんには二人の息子さんがいるが、長男が小児喘息を患っていたという。横浜市瀬谷区三ツ境にあった「横浜アレルギーセンター(現在は閉鎖)」に子供を預けたところ、育児疲れが見て取れたのか、主治医から「あなたも入院していきなさい」と進められたそうだ。この病院は「横浜二ツ橋学院」という院内学級にしてはかなり大きな学校を併設しており、子供の長期入院に対応した施設だった。

 入院中、週1、2回レクリエーションの時間があった。伊藤先生はここでパステル画に出会ったのだった。元々絵は好きだったが、美術の成績はダメだった。しかしパステル画はしっくりきた。続けたいと思ったが、当時はネットで調べても情報はなく、退院してしまうとそれっきりになってしまった。15年ほど前のことだ。

 それから何年か経った頃、「パステル和(NAGOMI)アート」のウェブサイトを発見。さっそく通うことにしたのだった。

 講師になる気はまったくなかったものの、当時はインストラクター養成コースしかなかった。カリキュラムは3日間で20〜22枚のパステル画を描き上げるというもの。朝10時〜夕方6時までと時間が決まっているので、かなりのハイスピードで仕上げなければならない。

「講師も生徒と一緒になって絵を描くのが『和』のスタイルなんですよ。教えながら描くので、生徒よりも早く描けないと都合が悪いんです。生徒も安心できませんしね。

 ところがなぜハイスピードで描かなくてはならないのか、なぜ3日掛かりでやるのか、受講中に理由を教えてもらえなかったんですよ。実際のところ、3日間つづけて体を空けられる主婦はなかなかいません。費用も決して安くはないですし、受講するハードルが高いんですね。だから自分がインストラクターを養成するときは、『1日8時間を3日間』という形を崩して『6時間を4日間』とか『4時間を6日間』、一番極端なときは『2時間を12日間』に分けて教えていました」。

 実際のところ、インストラクターとして活動する人は少ない。皆が皆、インストラクターになりたいわけではないのだ。1枚1枚ていねいに描きたい人もいる。伊藤先生は通常のクラスでは「1枚2時間くらいで」と伝えているという。

「ただしインストラクターコースの人は完全に分けて考えていて、早く描くように言っています。インストラクターの話は誰にでもしているわけではなくて、何度も質問してくる熱心な人、5回も6回も通ってくる人、など狙った人だけにしています。声掛けした方はだいたいインストラクターになるのですが、ただやはりなかなか声は掛けられませんね」。

 仮に資格を取ったとしても、よほどモチベーションが高くない限り、一介の主婦が教室を立ち上げることはない。伊藤先生自身、講習を終えてから3年の間、資格を眠らせていたという。

「そういう訳で『和』の規定に沿ったクラスとは別に『自分で楽しめる程度の技法』に絞った小さい絵のクラスも始めました。それが教室名にもなっている『小さなパステル画』です」

 通常の「和」のパステル画は15センチ四方の用紙に描くが、「小さなパステル画」はハガキサイズの紙を使う。小さな紙のほうが、より気軽に描けるからだ。じつは初期の教室名は「おひさまの詩」だったそうだが、生徒たちが「小さなパステル画」と呼ぶうちにこの呼び名が定着したのだという。

 工夫したのはサイズだけではない。画材に関しても柔軟に対応している。協会推奨のパステルは48色で約1万円する。しかし100円ショップで買えば、36色になってしまうものの100円である。これなら気軽に参加できるというものだ。

 もちろん100円のパステルは値段相応の「安かろう悪かろう」で、柔らかすぎて手につきやすい。しかし初めから納得していれば、我慢できるレベルだ。逆に1円玉でも削れるほど柔らかいので、カフェの一角で教室を開く(後述の「さんぽみち」でのクラス)とき、一般客に気兼ねせずに済むというメリットがある。流石に大勢でカッターを使っていると、気をつかわざるを得ないのだ。

 受講料も現実に即して設定した。

「『和』では推奨料金として1回3千円という価格が出ていたのですが、自分の周囲の主婦がちょっとお試しで受けるには高いと感じました。そんなとき、『栄公会堂』の地下にある『ふれあいショップさんぽみち』というカフェからお声が掛かりました。ここは重度障害者の方が働いている支援施設なのですが、利用者が少ないため教室をやってほしい、と言われたのです。公共施設ということもあり、3千円は高い。そこでコーヒー代込で700円にしました」

 数回で終わると思ったこの教室は好評で、予想に反して2年半ほどつづいたという(終了した理由は「さんぽみち」の閉店)。取材日当日はちょうど「さんぽみち」の代りに始まった新しい教室の初日だった。

「自宅を含めて数カ所で教えていますが、ほとんどが本郷台エリアです。どうも自宅教室は来にくいようですね」。

 前述のカッターの件も自宅で教えれば解決しそうな話だが、人様の自宅にお邪魔することに抵抗感を持つ受講者も少なくないという。そこで自宅教室の他に前述の「さんぽみち」や生涯学習センターなどで教えることにしたのだ。これは偶然が作用した面もある。教室を始めてまだ日が浅かった頃、栄区生涯学習センターにチラシを置いたところ「体験レッスンを開いてみませんか?」と声を掛けられ、宣伝もチラシづくりもすべて館の担当者がやってくれた、というラッキーな出来事があったのだ。

「大きな公共施設で体験レッスンをやると人が来てくれますね」。

 逆に自宅でやるメリットもある。

「自宅教室のメリットは忘れ物の対応ですね。時間の融通が利くのも利点で、生徒さんが『もっと描きたいです』と言えば、延長しています。長い人だと2時間のレッスンに来て4時間粘っている、ということもありますね」

 参加者の平均年齢は50歳くらい。40代以降の女性が多いという。

「みなさんが嬉しそうな顔をしているとき、やってて良かったと思います。皆さん、隣の方の絵が気になるようですが、家に帰って自分の絵を飾ると案外悪くないな、と感じるようで喜んでいただいています」。

 パステルは絵の初心者にも取り組みやすい画材だ。水彩画はポピュラーだが、薄い色から描き始めなければならず、間違って濃くしすぎるとやり直しが効かない。一方パステルなら色の濃淡を気にせず好きな色から塗れる。ハードルが低いのだ。

「やっているうちに絵が巧くなるというより、色の使い方が巧くなるというイメージですね。同時に指に圧の掛け方も上手になります。だんだん変わってくるのが感じられると思います」と先生は上達の過程について説明する。

 今年(*2015年当時)の6月までは上記の「さんぽみち」で頻繁に展覧会(温習展)を開いていたので、それが参加者の励みになっていた。この会場がなくなってしまったことが残念だが、新しい会場でひきつづき頑張ってもらいたい教室である。

小さなパステル画(ちいさなパステル)
主催者:伊藤 ゆうこ(いとうゆうこ)
住所:横浜市栄区柏陽
http://ohisama.lolipop.jp