メケメケ

メケメケ

町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

有明のタワーマンションで、サロネーゼの世界を垣間見た話

f:id:yanvalou:20180609001533j:plain

パン教室 Salon de luciole 寺澤麻都さん

2015年5月27日に取材した東京・有明のパン教室「Salon de luciole」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。

(ちょうど「サロネーゼ」ブームの頃に取材したのですが、懐かしい響きですね……)

 臨海副都心の足・ゆりかもめ線「有明テニスの森駅」から徒歩3分。江東区有明タワーマンションに向かった。

 ここは本来一番高く売れるはずの最上階を、エレガントなバーや間接照明できらめくプールという共用施設にしてしまったことで一躍有名になった物件だ。

 石張りの池に渡した橋を渡り、天井まで届くガラスのドアを通り抜け、エメラルドグリーンの威風堂々たる列柱と鏡面仕上げの大理石で彩られたエントランスに感嘆しながら、取材先のインターホンを押した。

 インターホン越しの寺澤麻都先生は優しそうな声で解錠してくれた。

 エレベーターに乗り込んで上階に向かう。タワーマンション特有の、カーペット敷きで窓のない廊下を歩き回り、目当ての部屋番号を探す。あった。

 出迎えていただいたそこは、シンプルで上質な空間だった。先生にお会いする前の段階、つまりマンションに来た瞬間から非日常の世界に入り込んだような心持ちになり、知らぬ間に意識のチャンネルが切り替わっていたことに、改めて気づかされた。

 寺澤先生のパン教室「Salon de luciole」はタワーマンション内の自宅でレッスンをしている。調度品はあっさりして趣味がよく、お子さんを膝に載せた先生はまだ若くて見目麗しかった。掃除や片付けも行き届いていて家内は澄み渡るよう。レッスンが行われるというダイニングルームからは、建設中の豊洲新市場と遮るもののない広大な有明の大地、更にその先には東京タワーやスカイツリーが一望できた。この教室に通っているのはどんな人たちなのだろうか。

「20代から40代で有明、東雲、豊洲に住んでいる方が多いですね。半分くらいはお子さん連れです。残り半分はほとんど幼稚園生や小学生のママで、子供たちがいない間に自分の時間を楽しみたいという方たちです」と先生。

 身近な憧れの対象として夢を売る仕事をしているのかと思いきや、参加者も先生と同年代で妙な敷居の高さはないようだった。きっと気の合った仲間相手の素敵なおもてなし、という世界なのだろう。

「パンは結婚前から趣味で習っていました。南千住の個人の教室でコースに入ったんです。体験レッスンや単発レッスンで何カ所か行ったことがありますのですが、この入会を決めたその教室が私にとっては一番でした。レシピが丁寧なんです。せっかく教えて頂いても1月経つと忘れてしまうことは少なくないと思うのですが、レシピがしっかりしていると後で見返したり、再挑戦したときに役立つんです。先生のお人柄も良かったですし」

寺澤先生のクラスは「とくかく自分でたくさん焼いていく中で成長していきました」とか「パンは力仕事なので2~40代の受講者がダントツに多いんだと思います」などという言葉の通り、優雅なだけではなくかなり本格的だ。「自宅で実際に作れるようになりたい」と真剣に思って来ている受講者がほとんどなので、サロン的な気安さとは少々勝手がちがう。

 レッスンはまず、口頭でのレシピの説明から始まる。その後、実際の調理に入る。計量だけは先生が行うそうだが、あとはすべて生徒が1人で行う形だ。もちろん先生が横について教えてくれるので心配はいらない。少人数制で生徒は最大で3人までにしているという。

 レッスンの締めは試食になるが、焼きたてがおいしいパンと冷ましてから食べた方がおいしいパンがあるので、試食は行わないこともある。焼いたパン類は教室で用意した箱や袋に入れて持ち帰ってもらう。持ち帰り用の袋にも工夫を凝らしているのが、「Salon de luciole」らしさである。

「そのままプレゼントできるように、見た目のかわいらしさも意識したものを用意しています」という寺澤先生の言葉通り、「パン屋さんで買ったみたい」に見える袋は好評だ。実際、帰りにそのまま友人にプレゼントする受講生もいるという。

「二次発酵中の待ち時間にティータイムを設けています。サービスで私が焼いた焼きたてのパンを食べて頂いています。また、日頃家事や育児でお疲れの皆様に穏やかで優雅な時間を楽しんで頂けたらと思い、月ごとにスイーツを決めてお出しするなど、工夫するようにしています」。

 生活空間コーディネートのカリスマとして知られるS先生のテーブルコーディネイトレッスンを以前受けていたという寺澤先生。もてなしの技術は折り紙つきである。

 受講生はほとんど毎月リピートしているのでどれも美味しいと言っているが、特に好評なのが、「栗と抹茶のライ麦パン」と「リッチチョコのアーモンドクランブルパン」だという。定番のパン、例えばベーグルやウインナーパン、ピザなどもやはり人気のコースだ。

 先生が気を遣っているのが食材選びだ。具材はできる限り国産無添加のものを選んでいるという。臨海副都心エリアには食材にこだわりを持つ人が多いようだ。化学調味料、保存料、着色料などは極力避けているとのこと。お子様に食べさせたいと思って来る生徒さんが多いので、食材の買い出しには手間がかかったとしてもシンプルな原材料をつかうように心掛けているそうだ。

 例えば粉はもちろん北海道産だが、無塩バターも、よつ葉乳業の北海道産のものを選んでいる。また最近のメニューのピザパンでは、ソースはトマトと塩のみで作られた、高級食材店で購入したものを使用したそうだ。それもこれも「生徒さんに満足して欲しい」という一心から来るこだわりである。

 これは取材中に感じた印象だが、寺澤先生はかなりまじめな優等生だったのではないだろうか。2014年7月に「Salon de luciole」を開講してからも、日々美味しいパン屋さんに出向き、美味しいものの研究をしたり、大量の本に目を通しながら日々研鑽を続けている、という姿勢からも、ひとつのことに真剣に打ち込むまじめな人柄をうかがい知ることが出来る。

「受講者の方から本当にたくさんのメールを頂きます。『とても楽しくて満足だった』『家族が喜んでくれた』『子供がたくさん食べてくれた』『家でも作ってみました』という報告を受けると励みになります。ご主人様やお子様も月1のこの日を楽しみにして下さっているということも耳にします。教室ではアレンジの仕方も教えていますが、自宅でアレンジした物を写真付きで報告してくれる方もいて嬉しいですね」。

 先生と生徒さんたちの距離の近さが感じられ、聞いていて微笑ましかった。

「私は大手の教室ではできないようなレシピ作り、優雅さや子連れOKな柔軟さなど自宅教室ならではの良さを活かしてやっていきたいですね」。

 居心地の良い空間にいると、こうも気持ちよく前向きになれるのか、ということを実感した取材だった。

Salon de luciole
主催者:寺澤麻都(てらさわ あさと)先生
住所:東京都江東区有明
http://ameblo.jp/rosepppinkey/entrylist.html

※ Salon de lucioleは2017年7月を以て閉講。現在先生はパリにいらっしゃるそうです。