メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

「このミス」大賞受賞作家・倉井眉介さんが薦めるミステリー小説8選

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倉井眉介さんの講演会。前回からの続きです。

www.yanvalou.yokohama

その前に、まずはnoteの引用から。

家族や世間に「小説家になりたい!」と中二的に宣言すれば、嘲笑や冷やかしやあざけりが返ってくるかもしれないという不安は誰にでもある。作家は選ばれて天賦の才能を与えられた特別な存在であり、自分なんかが「作家になりたい」と願うのはとても不遜な望みだと思っている人は多い。最近ある書店の店主さんに聞いた話だが、「作家になるには」的なセルフヘルプ本は書店店頭ではまるっきり売れないのだという。つまり「あなたも小説家になれる!」という本を手に持ってレジに向かうのはあまりにも恥ずかしいことだと見なされているのだ。自意識のポルノグラフィも同然の「なるには」本は、だからオンライン書店でよく売れるのだという。

▲#MeToo時代のクリエイティヴ・ライティング(吉田恭子)より

これを書いたのは、立命館大学文学部教授の吉田恭子さん。

上記の状況は、倉井眉介さんの「プロになれるのは自信満々な人だけ」という意見からかけ離れていますね。

倉井さんのような「強い人」の周りには、「なりたい人」や「憧れる人」が集まっていくかも知れません。

 

さて今回は、そんな自信満々な倉井さんがお薦めする本や、当日会場から上がった質疑応答の模様をお伝えします。

 


【文庫版】小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない (角川文庫)

 

倉井眉介さんが薦める本

もっとも影響を受けた作家:

小林泰三さん
作品で言うと玩具修理者(第2回日本ホラー小説大賞受賞作)。小林さんのデビュー作で短編なんですけど、僕が小説にハマるきっかけになったのがこれと言っても過言じゃない。


玩具修理者 (角川ホラー文庫)


玩具修理者 [DVD]

 

好きな本ベスト3:

3つに絞れなかったので、4冊で。

1-東野圭吾さんの『名探偵の掟』。
主人公が自分が小説の中にいると分かっている小説なんですね。短編集なんですけど、4冊の中のナンバー1はこれかな。


名探偵の掟 (講談社文庫)


名探偵の掟 DVD-BOX

2-麻耶雄嵩(ゆたか)さんの『神様ゲーム』。
子供向けに書かれた話なんですけど、ページ数こそ少なくて読みやすいものの、全然子供向けではない作品。自分は神様だと名乗る小学生が事件の真相をスラスラ言ってしまうというもの。僕はこの世界観が好きで、この絶望感をみてみたい。


神様ゲーム (講談社文庫)

3-歌野晶午さんで『密室殺人ゲーム 王手飛車取り』。
五人の人間がネットの中で推理クイズを出し合っているんですが、出題者が本当に人を殺していて、さらにこの密室をどうやって作ったのか調べてくださいよ、という内容。かなり狂った感覚なんだけど、僕が紹介するのは狂ったものばかりです(笑


密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

4-米澤穂信さん『ボトルネック』。
結末が絶望的な話。世の中には救いのある話ばかり溢れていますが、主人公が世の中の偽善に対して「そんなことねえよ」というのが気持ちいい。気持ちが落ち込んでいるときには、見ない方が良いですね。


ボトルネック (新潮文庫)

 

お薦め本ベスト3:

1-綾辻行人さんの『十角館の殺人』。
ミステリー好きはお薦めのミステリーとして紹介するんですけど、クローズドサークルで7人か8人のなかで殺人が行われ犯人捜しをする。トリック自体はスゴくはないけれど、演出の切れ味、大切さが分かる。


十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

2-小林泰三さんの『アリス殺し』。
会話が奇妙でして『不思議の国のアリス』がモチーフで、アリスと博士と蜥蜴のビルが会話しているシーンがあるんですけど、この博士がビルを馬鹿にして言うんですね。
「お前みたいな畜生が、偉そうなことを言うな」。
そうするとアリスが蜥蜴のビルの代わりに「そんな風に畜生を馬鹿にしちゃいけないですよ」と言うんですが、ビルが「なんのことだい? 僕は確かに畜生だよ。僕は立派な獣。畜生だよ」と胸を張るシーンがあるんですね。
この恍けた会話の中に真理がある。鋭いことが書いてある。


アリス殺し (創元推理文庫)

3-西澤保彦七回死んだ男』 
同じ日を何回も繰り返す能力を持つ男。自分ではコントロールできない。読みやすいし落ちもついていて面白かった。


新装版 七回死んだ男 (講談社文庫)

 

会場からの質疑応答:

Q:1日の作業時間は?

A:規則的な生活が苦手でまとめて書いてしまっているんです。ノリ始めると止めたくないので、十数時間書き続けたりもします。逆にサボっている日はサボっちゃってという感じなのですが、平均したら、たぶん7、8時間です。

Q:デビュー前に書かれた作品数は?

A:書き溜めた作品数ですが、完成させたものは3か4くらいしかないです。

書き溜めたのを編集者に見せたら「作家さんは新しいのをどんどん作った方が良い」と新しいのを要求されて、それが次の作品と更に次の作品に決まったんですけど。

ほかの出版社の作家さんが、昔の作品を見せたら「じゃあ、これでいきましょう」と気持ちよく決まって「あれ?」となりました(笑 でも新作をつぎつぎと書き続けることは大事だと思います。

Q:子供の頃刺激を受けた本は?

A:現代文のテストに出てくる小論文。問題を解きながら面白いと思ってましたね。
印象的だったのは「ロボットに心は宿るか否か?」というテーマのもの。

「ものをつくるためには、まず設計図が必要だ。では人の心の設計図を人はつくれるか」といったら、それは多分無理なんです。

人が人の心を見るということは、鏡で自分の顔を見たとしてもそれはありのままじゃなくて、人によってよく見えたり、悪く見えたり、実際の姿と少し違うと思うんです。同じように人の心を読もうとした場合、ありのままの心が見えない。実際人はすばらしいものだと言われるけれど、ありのままが見えない以上、設計図はつくれない。だからロボットに人の心は宿せない」。

なるほど、と思って。こういう話が結構あるので現代文の問題集は意外と面白かった。
作家になりたい人は現代文を勉強した方が良いかもしれないです(笑 

Q:映画がお好きだということだったんですけど、脚本家を目指さず小説家を目指したのはどうしてですか?

A:俳優さんに光が当たるのに対して、脚本家は地位が低いので(笑 それにミステリー小説はよく読んでいましたから、書くんだったらミステリーだと。

ミステリーを読んでいくうちに読むものがなくなってきたんですね。ない訳じゃないけど、自分が求めるものがなくなってきた。こうなったら自分が作るしかない。大学の頃ミステリー小説を読むようになって、自分の頭の中で想像するようになって、これはプロになるしかないというレベルに達したので、作家になればいいやと思って、作家になりました。

就職するなら社長になりたいなと思っていたが、就職活動で苦労しているくらいだったら、僕が社長になるのはまず無理だろう。だったら作家で、とも。いま思うと当時の考えは相当酷かった。

Q:倉井眉介さん。これはペンネームですか? 本名ですか?

A:本名は「黒岩悠介 くろいわ・ゆうすけ」なんです。

くろいわの「い」と「わ」の間を区切って「くろい・わゆすけ」。でも「わゆすけ」という名前はないから、眉にしちゃって「くろい・まゆすけ」。まだ苗字が変わっていないから、「くらい」にしようかな、ということで「くらい・まゆすけ」になったんですね。

本当はプロになると決まったとき、耳がデカイので「耳介」にしようと思ったんです。そうしたら編集者に断られちゃって。「眉介の方が良い」って言われたんです。

とにくかく特徴を付けることと、苗字の読みやすさを意識しました。
それから本屋で「カ行かサ行の作家」なら探してもらえる、ということも考えました。

 


即上達! 60歳からの小説の書き方全極意


文章を仕事にするなら、まずはポルノ小説を書きなさい

 

一見した限りでは、ごく普通の人に見える倉井さん。

しかし「脳チップが埋め込まれたサイコパス」が主人公の話は、まるっきり普通だったら書けません。

案外、かなりマッドな人物なのかも知れません。

個人的には面白い講演だったと思いますが、読者の皆さんはどう思われましたか?

今日の記事は以上です。
またのお越しを、お待ちしております!