メケメケ

メケメケ

町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

オーガニックな空間をクラウドファンディングでつくりあげた旅人カフェの話

f:id:yanvalou:20170519163446j:plain

地球を旅するカフェ 山下夏沙さん

2015年5月13日に取材した東京・高田馬場の「地球を旅するカフェ」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。

高田馬場は語学学校が多い町である。英語やヨーロッパ系の言語ばかりでなく、ミャンマー語などマイナー言語の学校も揃っている。日本語学校を見かけることも多い。それだけ外国人が多いのだ。外国人と言っても彼らの大半は学生や若者だから、妙な敷居の高さはない。気取らない学生街の趣はそのままだが、意外なほど国際化が進んだ地区だといって良いだろう。

さて、手頃に異文化を体験する手段として食べものや飲み物がある。高田馬場は異国の風を感じられる飲食店も豊富だ。そんなお店の一つが昨年オープンした「地球を旅するカフェ」だ。

オーナーの山下さんは国際経験が豊富で、いままでに70カ国以上旅してきたという。

「両親が旅行好きで、子供の頃からいろいろな場所に連れて行ってもらいました。高校時代には1年間アメリカに留学して。世界中に友達ができたお陰で、海外のニュースを身近に感じるようになりました」

彼女の異文化体験はその後もつづく。大学1年のとき、国際NGOのツアーで世界一周。大学卒業後は青年海外協力隊の業務でウガンダに派遣され、アフリカの文化と環境にどっぷり浸かった。その後世界一周ツアーで縁ができたNGOのスタッフとなり、ひきつづき世界と関わりつづけてきた。ここでパートナーの市川さんとの出会いもあったそうだ。

ところが忙しく働いているうちに体調を崩してしまった、という。そこから食が体や社会に及ぼす影響について考えるようになったそうだ。

もともと山下さんは地元に大好きなカフェがあり、「いつか自分の店を持ちたい」と思っていた。彼女が通っていたという店は今風のカフェと言うより、80年代から90年代にかけて一世を風靡したカフェバーのような体裁で、店内は薄暗くごちゃごちゃしているものの、味があった。居心地のよさに惹かれてやってくる客層は幅広く、昼は年輩者、夜は若い人が集まっていたという。

筆者が思うにカフェというのは単なる飲食店ではなく、人と人をつなぐ空間、出会いの場だ。山下さんはここで「自分の店」をもつ、というアイデアと出会った訳だ。

とはいえ実際に店を立ち上げるのはたいへんだった。資金はクラウドファンディングで調達した。内装工事は大工さんの力を借りながら自分たちで仕上げた。店づくりに関してまったくの素人だったのでカフェ本をみながら研究したが、内装の木材を選んだり、ソファーを縫い上げたり、いすやテーブルに磨きを掛けたりするのはなかなか骨が折れる作業だった。

camp-fire.jp

店を始めるにあたって開店前から考えていたことは「オーガニックにこだわる」ことだった。大工さんのアドバイスもあって内装も自然素材に統一。釘や接着剤をつかわずに仕上げたという。「正確に言うとキッチンのタイルだけは市販の接着材で固定しているんですけど、あとは自然素材です」というから偉い。単純に木材を使ってウッディな空間にしただけではない。塗装はバターミルクペイントを、漆喰で仕上げたアフリカ風と思しき壁も自然素材の西洋漆喰でつくっている。人が座って食事をする場所なので、空気感を大事にした結果だった。

メニューは山下さんが肉や動物由来の食品をあまり食べないせいもあり、いくつかの肉料理を除いてベジタリアン風のものが多い。あえてオーガニック・カフェを名乗ってはいないが、食材の背後にオーガニックなストーリーが流れているかどうかという部分は気にしているそうだ。

もう一つ気にしているのはフェアトレード。オリーブオイルはパレスチナのオリーブ油を扱うフェアトレード団体から、コーヒーはタイ北部を旅行中に見つけた「アカアマコーヒー」を取り寄せて使っている。

「アカアマコーヒーはチェンマイのカフェで初体験したんです。絶対この豆を使いたい、と思ってお店の人に質問したら、店主のお母さんが自分の畑で作っている豆だったんです。ここの豆は最近チェンマイで有名になってきているようですよ」

natsusa-blog.com

自分の店を持って手にしたのは「自分のアイディアがお金になる」という実感だという。山下さんと市川さんは食べるものだけでなく、フェアトレードを通じてものが流れる仕組みも作っているのだ。

店舗の経営はお客様を待つ仕事である。「地球を旅するCAFE」には地元在住の常連客も多いが、遠方から旅好きが訪ねてきてくれることも少なくない。ずっと旅を続けていた2人にとって旅愁を掻き立てられることもあるはずだ。しかし新しいつながりが生まれたり、海外からのお客様をもてなしたりしていると退屈しないのだという。カフェ自体はささやかな空間だが、ここでは1日として同じ日はない。開店当初は友人が大勢きてくれたものの、お客様の来店に料理のスピードが追いつかないなど、馴れない作業に四苦八苦することも少なくなかったという。しかし「自分たちの空間がここにある」という自覚もあって、あまり大変だったという感覚はないそうだ。

私たちカフェ愛好家にとって、新しい店舗に通う楽しみは、店の進化の過程に立ち会えることだ。あなたにも「地球を旅するCAFE」の成熟していくさまをぜひ体験してほしいと思う。

地球を旅するCAFE(ちきゅうをたびするかふぇ)
店主・山下夏沙(やましたなつさ)
東京都新宿区高田馬場2-12-5
http://chikyu-tabi-cafe.com/

chikyu-tabi-cafe.com

2017年5月23日、タイトルを変更しました。