メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

シンデレラの「ガラスの靴」を実際につくっている職人の話

f:id:yanvalou:20180219112850j:plainPhoto : Rex Shutterstock footwearnews.com

2015年5月23日に取材した東京・中野の 「ガラス教室なかむら(なかむら硝子工房株式会社)」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
記事の内容は取材時のものです。

 もっとも有名なガラス工芸といえば、おそらくシンデレラのガラスの靴だろう。運命の女性を決定づけるロマンチックなアイテムに、お伽話の枠を飛び越えて心ときめかせる女性は少なくないに違いない。そんなガラスの靴を実際に作ってしまったガラス職人が「なかむら硝子工房」の中村昌央さんだ。

「かけがえのない大切な人に贈る 世界で唯一 本当に履けるガラスの靴」。女性が足を通した写真からは、冷たいガラスとは一線を画した優しさが感じられる。

 中村さんの工房は東京・中野区の住宅地の一角にある。現地に足を運んだところ、それらしい建物が見当たらない。じつは中村さんの作業場はRC造の自宅1階、車のガレージを転用した個人工房だったのだ。火を扱う仕事ということもあり適当な物件を探すのが難しかったため、車を2台を停めていた自宅の車庫から愛車を撤去。コンクリート造りの突き当りにガラス溶解炉と焼戻し窯をしつらえた。義理の父が消防関係者ということで、防火対策に万全を期して窯開きしたという。2002年のことだ。

「ガラス工場が減っているのと対照的に、個人工房が増えてきているんですよ。個人で活動するには小さい工房の方が動きやすいと思います」

 かなり早い段階からものづくりに興味があり、手に職を付けたいと考えていた中村さんは、中学を卒業してすぐにこの世界に入った。ガラス工場で職工として働き始めたのだ。入社のきっかけは中学校まで職安(当時)の職員が来て、会社説明してくれたからだった。この工場では「早いうちから始めた方が良い」という考えから高卒者の採用はしておらず、中卒者だけを受け入れていた。

 一人前になるには10年かかると言われたため、中村さんは早く技術を取得しようと率先して練習した。最初に教えられたのは、溶けたガラスを吹き竿の先に巻きつける「タネ巻き」とよばれる技術だ。炉の中で竿を回しながら行うのだが、相当練習しなければむずかしく、綺麗に巻きつけられるようになるまで数ヶ月かかるという。「タネ巻き」ができないと先輩社員といっしょにラインで作業することができない。中村さんは、昼休みも「タネ巻き」の練習を続けた。

「教室で教えるときも、『タネ巻き』からやってもらいます。生徒さんはあくまで趣味でやっているので一緒に竿をもって回します。工場の場合はひとつの作業工程を2~3年つづけて行い、技量を上げていくのですが、教室では最初から最後までひとつづきの流れを追ってもらっています。実際のところ、『タネ巻き』ひとつとっても奥深くて量の調整がうまく出来るまでに2年以上必要ですね」

 じつは中村さんのように工場出で個人工房を立ち上げる職人はかなり珍しいという。中村さんは「おそらく数人しかいないはずです」と語る。中国の安い製品に圧されているため工場自体、数が減っているのだが、残った工場に経験者が集まる一方、若手があまりいない。ガラス業界はかなり男臭くて、業界内は顔見知りが多いという。その一方、教室は9割が女性で、若い人から年配者まで万遍なく教わりに来ているそうだ。

「1クラス3人なのですが、それこそ手取り足取りやさしく教えています。月4回の体験教室と、3ヶ月コースのレギュラークラスがありますが、現在通っているのは十数人ですね。吹きガラスには『宙吹き』と『型吹き』があるのですが、うちでやっているのはもっぱら『宙吹き』です」

 決まったカリキュラムはあるものの、生徒のつくりたい物を聞いて、臨機応変に授業を行うのが特徴だという。

「融通の効かない教室もあると想いますが、うちではヤル気のある方にはどんどんやってもらっています。そうすることで気付きが得られて、長続きする方が多いんですよ。もちろん技術が追いつかないと難しい部分はあるのですが、それぞれの進み具合を見てその都度教えます。自分でやる人、頼ってくる人、人それぞれです。やり方はひと通りではありませんし、既に習得した技法を応用することもできるので、相談に乗りながら進めています」

 そうこうしているうちに、作品がどんどん溜まっていく。ガラスをつづけている生徒のために、中村さんは年1~2回教室展を開いている。半数くらいの生徒は出展しているそうだが、値段をつけて発表することが大きな励みになるのだという。

 ガラス教室を運営する一方、中村さんは企業からの受注でガラス製作を請け負うことが多いという。「普段はスタッフと2、3人で流れ作業しています。心がけていることは最後の成形を僕が行うことです。人が変わるとどうしてもニュアンスが変わってしまうため、サンプル通りにならないんですよ」

「なかむら硝子工房」のウェブサイトを見ると、メディア協賛のトロフィーや企業のオリジナルグッズなどメディアに取り上げられた仕事が多いことに気づく。そんな華やかな世界で使われているものが、ガレージ工房で生み出されている事実に、日本のものづくりの不思議を思った。あなたも知らないうちに中村さんの仕事を目にしているかもしれない。

ガラス教室なかむら(なかむら硝子工房株式会社)
講師:中村昌央(なかむら まさお)
住所:東京都中野区本町5-24-10
工房URL:http://www.nakamura-glass.com/
教室ブログ:http://ameblo.jp/glassmate/