ども。檀原(@yanvalou)です。
先日、Web上の某ライターサロンで「インタビューの際に謝礼を払うべきか」というトピックが上がっていました。
このサロンは主に Webライター向けのもので、その業界では比較的知名度のある女性ライターが主催しています。
活発に発言している人たちを見る限りでは、参加者のボリューム層は初中級者。
稼げている人で月収15万円くらいというレベルのようです。
トピ主は、これからインタビューや取材記事を書きたいと考えており、その際取材相手に謝礼を支払うべきか、払うのであれば相場はどのくらいか知りたいといいます。
この件に関して僕なりにお答えします。
インタビュー相手に支払う謝礼は?
まずインタビュー案件を大きく二つに分けて考えましょう。
- 請負仕事
- 自主企画
1.と2.では性格が大きく異なります。
1.の場合。
支払う、支払わないという判断は編集部側が行います。
ライター個人が気にするケースではありません。
媒体にも拠るのでしょうけれども、ビジネス系の場合は編集部から取材相手(インタビューイー)に謝礼を支払っていることが多いようです。
これは社会的な知名度があり、多忙な中から時間を作っていただいている相手への敬意でもあり、また業界の習慣でもあるようです。
もっとも飲食店取材の際に支払われるケースは、まずないはず。
最後に個人相手の場合。
俗に「先生」といわれる人たちの場合は、支払われるケースが多いように思います。
ただしこれも一律ではなく、編集部次第という部分があります。
2.の場合。
自主企画というのは、いわゆる持ち込みです。
ライターが企画を出し、編集部がその案を採用するケースです。
自主企画の場合「取材を済ませ、原稿を持ってこい」と言われるときと、「企画段階(アイデアの段階)で OK/NGを出すから、まず企画だけみせろ」と言われる場合があります。
前者の場合、取材相手への謝礼を編集部が肩代わりしてくれる確率はゼロです。
だから謝礼を支払うべきか否かは、ライターが判断しなくてはなりません。
後者の場合、僕自身の経験では交通費などの経費を前渡しされた経験はあるものの、大抵実費を下回っており、とても謝礼を支払う余裕などありません。
つまり謝礼を支払うとしたら、自分の原稿料から負担するしかないということになります。
大きな編集部では一度引き取った企画を編集部が動かすので、アポ取りの際に編集部から取材相手に対し謝礼の話が行われることもあるのかもしれません。
ただ自分にはそういった経験はありません。
いままでどうやって来たか
僕が初めて書いた媒体は「ミニコミ(死語)」でした。
いまでいうZine(ジン)とか同人雑誌のようなもので、まだ DTP がなかった時代、あるいはあってもさほど普及していなかった時代に有志が集まって、自主的につくっていた少部数雑誌です。
はじめてのインタビューは画家の金子國義さん(故人)でした。
金子さんは紙メディア露出の多い画家で、その筋では有名人。マガジンハウスなどの媒体から取材を受ける際には謝礼を受け取っているようでした。
当時の僕は確か23歳。
何の後ろ盾もない素人でした。
編集部と言っても全員アマチュアで、予算もライターが出し合うような状態です。
そんな状況で、大御所に対して僕はどうしたでしょうか。
謝礼は支払いませんでした。
金子さんも大目に見てくれました。
なぜそんなことが許されたのでしょうか。
少なくともアートの世界では大御所が意欲のある若手に対し、様々な形で支援をすることがよくあるからです。
金子さん自身、無名時代に澁澤龍彦さんから引っ張り上げてもらった経験を持っています。
ですから営利活動抜きで面白そうな活動をしている若者たちから、お金を取るようなことはしないのです。
その後も僕は一度も謝礼を支払っていません。
まだライター活動をはじめて日が浅かったころ、知り合いのジャーナリストに謝礼の件で相談したことがあります。
書きながら思い出しましたが、僕も初心者時代は謝礼の件で悩んでいたのです。
件のジャーナリストはアウンサンスーチーさんにもインタビューしたことがある方でしたが、一度も払ったことがない、とのことでした。
以後僕はその例に従っています。
逆に過去に一度だけ取材協力(skypeインタビュー)をして謝礼を受け取ったことはあります。
媒体は「SPA!」で1万円に満たない金額でした。
ただしその一度を除いて、取材を受けて謝礼をいただいたことはありません。
そういう訳で自主企画では、取材相手には取材協力費はお支払いしておりません。
インタビューは大抵喫茶店で行いますから、その場のコーヒー代はお支払いしています。
しかしそれ以上のことはしていません。
メディアへの露出そのものを報酬と考えていただいています。
「謝礼を支払っていない」というと、「それは気持ちの問題ではないのか」と批判されることがあります。
しかし優先して考えるべきは取材相手が納得するものを書けるか(書くつもりがあるか)どうか、ではありませんか?
僕たちの仕事は相手が納得するだけの原稿を書くことです。
インタビューには2種類ある
僕はインタビューを二つに分けて考えています。
- 相手の主義主張を綺麗にまとめるインタビュー
- 書き手の考えを有名人や当事者に代わりに語ってもらうインタビュー
インタビューは相手の主義主張や体験談を聞いて、綺麗にまとめるだけのものではありません。
書き手の言いたいことを読者にしっかり届けるために、インタビューという形式を借りて、説得力のある権威者や当事者に代わりに話をしてもらうことも出来ます。そういう利用法もありです。
自主企画では、僕はだいたい2.の目的でインタビューします。
ですからインタビュー相手の話の中身はだいたい予想の範囲内に収まりますし、演出家のつもりでインタビューしています。
とは言え、コントロール感が鼻につくとつまらないですよね。
相手に自由に発言してもらって、より生き生き話してもらいながらも、要所要所で方向付けするような質問を差し挟んだりぶつけたりしています。
取材中その場を掌握して「手のひら転がし」するためにキャスティング(企画立案)の段階から当日の質問まで、いろいろお膳立てをしますし、アフターケアもします。
相手の話を綺麗にまとめるだけ、というスタイルではないので、「対談みたいだ」と言われることもあります。
そもそも論として「教えて君」ではいいインタビュー原稿は書けません。
相手と同じ土俵に立っている以上、ある意味対等だと思って仕事しますよ。
ですから「気持ちの問題」と謝礼を結びつけるのは、プロらしくないと思いますね。
(もちろん依頼仕事や匿名記事の場合はこの限りではありませんので、ご安心下さい。あくまで自主企画のときだけの話です)
■追記■
この記事のつづきを書きました。
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