メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

絵描きになるには学歴はいらない。しかし銀座でやっていくには金がいる。

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2015年6月15日に取材した西湘・二宮の絵画教室 「あとりえこかげ」の紹介文です。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
記事の内容は取材時のものです。

「大学を中退した20歳のときから『大学を出ていなくても絵かきになってみせる』と思ってやってきました。そこで東京に出て銀座の画廊でグループ展や個展をしていたのですが、その結果思い知ったのが『確かに学歴は必要ないが、銀座でやっていくにはとにかく金がいる』という身も蓋もない事実でした。そこで出身地の伊勢原に近い二宮に転居して仕切り直しをしているところです」

「アトリエこかげ」を主催する村上健太さんは熱い思いを吐き出した。

 アトリエは空き家になっていた一戸建てで、不動産屋がまだ表に出していない物件だった。「自由に改装できる取り壊し寸前の一戸建て」はないか、と伊勢原、秦野、平塚の不動産屋でおよそ200軒の物件をリサーチ。最終的に20軒ばかり内見して現在の物件に決めた。畳を剥がし、内装もあちこちいじり倒した。2年間自分のアトリエ兼住居として活用してきたが、2014年の暮れに絵画教室の運営を思い立ったという。

「教室の運営は以前から漠然と考えてはいたんです。しかしいよいよ腹をくくった、といいますか。教室はアートに絞った寺子屋のようなイメージで考えています」

「アート教室」とは言うものの、それは一種の口実で、実際はもっと自由な形を考えていると村上さんは言う

「絵は教わるものじゃないと思うんです。基礎の基礎や道具の使い方、手順、近道になるようなアドバイスはします。『こう使うと発色がいい』とか『経済的だ』といったことも教えます。しかし僕が伝えたいのは『絵の楽しさ』なんです。

 子供を絵画教室に通わせるお母さんは、技術的な面を習わせたいのかもしれません。しかし技術の習得はいつでもできます。うちは美大受験コースを設けていません。従来の絵画教室のイメージではなく、誰が来てもいい。日程も決めていません。週に1回、お好きな曜日に来ていただければ結構です(月4回・5千円〜)。開講時間中でしたら、何時間いていただいても構いません。様々な世代の人が集まって刺激的な場所になれば」。

 何時間いても構わないため、作品制作の息抜きに散歩したり、ティータイムを満喫するなど、自分のペースで利用して欲しい、とのこと。村上さんの話を聞きながら、絵画教室というのは表看板に過ぎず、「絵を通じたコミュニティーの構築」が裏テーマなのだと感じた。

「子供からお年寄りまで幅広い年齢の方を受け入れています。厚木に学童保育を運営しているアーチストの方がいるそうですが、ここでも託児所のような形でお子さんを預けていただくことも可能です。あくまでもアトリエなので本物の託児所ではありませんし、多くを求められても困りますが、絵を通じて身につく世界があると思います」

 教室では木を彫っている子がいたり、グラスファイバーでランプシェードの傘をこしらえている子がいたりと、絵を描くことにとらわれず、のびのび好きなものを作ってもらっている。村上さんは作り方を教えるというよりも、材料を揃えるなどしてお手伝いをするスタンスに徹している。明確なカリキュラムは敢えて用意せず、一人ひとりをみながらアドバイスを送るのが、「アトリエこかげ」のやり方だ。きっちりしたデッサンの描き方を覚えてもらうよりも、ものをつくっていくなかで「気づき」を得てもらうことを優先しているという。

 いわゆるお教室ではなく、村上さんが子供時代に夢想していたという「変な兄ちゃんがいるアトリエ」をそのまま形にしたのが、「アトリエこかげ」なのだ。

 芸術は敷居の高さがアダになって、世間から半ば隔離されたような状態にある。村上さんはこの現状を変えたいのだという。

「欧米では新築住宅とセットで絵を購入するんです。絵が1枚あると、住まいがガラリと変わります。日本でも、例えばイケアで千円の絵を買うことはありますが、やっぱり本物の絵を飾ってもらいたいですね。このアトリエはアート×住まいのモデルハウスとしての機能ももたせているんです。

 ホワイトキューブ(註:美術の展示空間のスタンダードである、白く無個性な箱型空間)に掛けた絵は美術館の肥やしになるだけです。絵は、暮らしの中の空間やカフェなどに飾られることで完成すると思います」

 なんとなく「絵は富裕層のもの」というイメージがある。しかし人類は文字を発明する前から絵を描いてきた。絵はもっと身近な存在であってもいいはずだ。

 ここはレンタルアトリエや1泊千円のシェアハウスとしても使われている。整体師の先生に貸し出してイベントを行うこともあるなど、かなり自由な空間だ。海もあり山もありと自然豊かな二宮には、こんな肩肘張らない場所がよく似合っていると思う。

 かつて画業に取り組む者は、風光明媚な土地に移り住むのが通例だった。村上さんの活動を聞きながら、近年すっかり耳にしなくなった古の画家の姿が思い浮かんだ。

  *註:村上さんは「ホワイトボックス」という言葉を使っていましたが、「ホワイトキューブ」がより一般的な用語だと思われるため、本文中では「ホワイトキューブ」と言い換えています。

絵画教室アトリエこかげ
代表:村上健太(むらかみ けんた)
住所:神奈川県中郡二宮町山西654

atelier-kokage.com