メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

ロバを曳いて200キロ歩いたツリーカフェ店長の話

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2015年5月26日に取材した横浜の「なんじゃもんじゃカフェ」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。

 横浜市神奈川区の波打つように起伏がはげしい住宅地。これといった商店街もなく、何の変哲もない宅地がのんべんだらりとつづく町を歩いて行くと、どんどん道が狭くなり、やがて車も入れないくねくね道になっていた。その狭い路地を進むと、突然前方に立派な枝ぶりの大きな木が生えているのに出くわす。それだけならどうということはない。奇妙なのは、野太い幹に跨るようにして巨大な鳥小屋のようなものが乗っていることだ。錆びたトタンや古布でパッチワークされ、輪郭が歪んだ不思議な多面体構造物。おとぎ話の世界からそのまま抜け出してきたかのようだ。これが大関商品研究所が経営するツリーハウスカフェ「なんじゃもんじゃカフェ」である。

 生きている木を土台にした店なので、入り口は当然木の上である。吊り橋と見まごうばかりの階段をこわごわ登っていくと、徐々に視線が地上から離れていく。まるで木登りしているかのようだ。この木自体が高台に生えていることもあって、床上からの眺めは良好である。店の上から覆いかぶさるように四方八方から枝、枝、枝。店内は枯れ枝や古材、古着を樹脂で固めたものが縦横無尽に張りめぐらされたおもちゃのようで、異空間に紛れ込んでしまったかのような錯覚に陥る。千葉で自家焙煎しているというスペシャルティーコーヒーの香りが、ウッディな空間に深みを与えている。

「この店はもともと『バウハウス横浜』というシェアハウスの一施設でした。でもシェアハウスの住民たちだけで独占するのはもったいない、という思いからご近所さんや一般の方にも楽しんでいただけるようにカフェとして公開した、という場所なんです」と、店長の立花佳奈子さんは語る。

 ツリーハウスから「バウハウス横浜」のコミュニティスペースに場所を移して、さらにお話を伺う。天井が高く、ゆったりした空間は高原に建つペンションのようだ。

 この物件を管理している大関商品研究所の代表・大関耕治さんはもともと飲食店を経営していたが、自分たちで内装をリノベーションしたり、古い物件をコンバージョンしてつかったり、といった活動をしていたという。その流れのなかで高円寺の古い家屋を手に入れたことが、ひとつの転機になった。「値段が安いから」という程度の動機で購入した物件だったが、「昔の下宿みたいだ」というひらめきをそのままに、シェアハウスとして改装したのだ。当時のシェアハウスはまだ「ゲストハウス」と呼ばれており、認知度もまだまだだった。しかし住民たちが楽しそうに暮らしているのを見て、大関さんはこの方向で事業を進めていこうと考えたという。

 横浜の物件は大関さんの6軒あるシェアハウスのうちの1軒だが、元々は開発から取り残された土地だった。竹が生え放題の傾斜地、しかも車が入れないほど狭いので建築重機を使うことができない、という悪条件が重なっていたからだ。しかし大関さんの目は土地のど真ん中に生えている木に引きつけられた。売れ残りだけあって地価も格安だ。「ここにツリーハウスを建てたい」。そんな動機で大関さんは土地の購入を決定する。

 地目を調べたところ、家を建てることが出来ると分かったので「ツリーハウスのあるシェアハウス」というユニークな物件を建てることに決めたのだった。

 立花さんは「自分たちで基礎工事から手がけたんですよ」と当時を振り返った。

 大関商品研究所の社員には大工さんもいるそうで、工事は手慣れたもの(大関さん自身も大学で建築を学んでいる)。近所の畑を借りて建築資材の搬入をするなど、公道から離れた物件ならではの苦労もあったものの、群馬から知り合いの工事業者が応援に駆けつけてくれるなどして、無事に工事は完遂した。なるほど。型にはまらないツリーハウスの形状は完全セルフビルドの賜物だったのだ。

 いくら建築の経験があるとはいえ、ツリーハウスの作り方を知っている者がいた訳ではない。海外の事例を見て研究するなどの試行錯誤もあった。しかし手間をかけたことで、唯一無二の味のある空間として仕上がっている。ツリーハウスの土台となる木には、ひとつとして同じ個体は存在しない。種類、大きさ、樹齢などによって高さも枝ぶりも様々だ。それが斜面地という特殊な地形と合間って相乗効果を生んでいる。土地の力をここまで引き出した建築はそうあるものではない。

 このツリーハウスに魅せられてしまうのは人間ばかりではないらしく、近所の野良猫のお気に入りの散歩コースでもある(後にこの猫ちゃんは、向かいのお宅の飼い猫になった)。アライグマやタヌキ、ハクビシンが現れたこともあるという。

「いいことづくめに見えるかも知れませんが、この木はまだ成長しています。こまめにメンテナンスする必要があるなど、苦労もありますよ」と立花さんは語る。

 立花さんが大関研究所に入所したのは5年前。きっかけは大関さんが経営する「バウハウス南千住」に入居したことだった。もともとシェアハウスに興味があり、自分自身で作ってみたいと思っていたので、実地体験しようと考えたわけだ。そのとき当時は「大家と住人」という関係だった大関さんにいろいろ相談に乗ってもらいながら、彼女は浅草に自分のシェアハウスを立ち上げる。これが縁になり、大関さんが新しいシェアハウスを立ち上げたときに、一緒に働く誘いを受けたのだった。

 もともと大学時代は横浜に住んでいたという立花さんは、現在大関商品研究所の広報やディレクションをこなしながら、このカフェの店長として働いている。彼女は根っからの旅好きだ。この取材の半年前にはスペインとモロッコを訪れ、200キロの距離を荷を積んだロバを曳きながら見聞したという。そんな彼女の経営するこの店は、もてなす側ともてなされる側という違いこそあるものの、きっと旅の延長線上にあるのだろう。

なんじゃもんじゃカフェ
店長・立花 佳奈子(たちばな かなこ)
横浜市神奈川区三ツ沢東町5-55
http://nanjya.jp/cafe/

nanjya.jp

※2017年5月22日、タイトルを変更しました。