ども。檀原(@yanvalou)です。
さいきん「デジタルデトックス」の有効性がさかんに議論されるようになりました。
いわゆる「SNS 断ち」や「一定期間ネットから離れた生活」という奴ですね。
じつは4年ほど前に、デジタルデトックスを取り入れたアートプロジェクトを立案したことがあります。
1ヶ月間東北を駆け抜けた「みちのくアート巡礼CAMP」
関東が夏日のような陽気に包まれていた先々週、その陽気に刺激されて、4年前の2015年に参加した「みちのくアート巡礼CAMP」という合宿ワークショップのことを思い出しました。
この企画は震災や東北の文化を絡めつつ、その度に提示されるテーマに沿って、各自がアート作品ないしはアートプロジェクトのプランを考えてプレゼンする、というものです。
夏の東北を巡る、1ヶ月の集中ワークショップ
参加者たちは震災後の東北に身体と思考をおき、時空を超えた人々、土地、歴史との出会いを経験します。
というのが謳い文句。
講師陣は豪華で
- 赤坂憲雄(民俗学者、学習院大学教授、福島県立博物館館長)
- 長内綾子(キュレーター、surviart 主宰)
- 玄侑宗久(作家、福島県三春町福聚寺住職)
- 高山明(演出家)
- 畠山直哉(写真家)
- 藤井光(美術家・映画監督)
- 本江正茂(東北大学大学院 工学研究科 都市・建築学専攻 准教授)
- 山内明美(社会学者、大正大学特命准教授)
- 相馬千秋(アートプロデューサー、NPO法人芸術公社代表理事)
という顔ぶれでした。
聖地巡礼とデジタル・デトックス
2015年のテーマは「聖地巡礼」でした。
事前に数冊の課題図書が示され、それを踏まえてプランを考えるように、というお達しでした。
プランを立てる上で考えたのは、こんなことでした。
「聖地」とは、俗界とは時間の流れが異なる場所。特に聖地の中でも至聖所といわれる聖地の本丸は、極論すればある時点で時間が止まっている場所。歴史がない場所。
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「巡礼」とは、歴史の流れから距離を置いた場所に行くこと
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日常とは時間感覚の異なる世界に一定期間留まる、というプロジェクトを提示する
日常生活の中に、通常とは異なる時間感覚、身体感覚、心理状態を手軽に経験できる場所はあるか?
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お風呂はどうか?
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銭湯や温泉なら、聖地巡礼的な意味合いを持たせられるのでは?
アボリジニの聖地には何もない。そこにあるのは神話だけ。
ある場所を言葉の力で聖地に変える
イニシエーション。そこで過ごすことで、アイデンティティを獲得する。通過儀礼。
以上のアイデアの断片を元に、僕が提示したプランは以下の通りです。
いわゆる「湯治」を下敷きにしたプランです。
温泉療養の期間は概ね3週間
「湯治は、七日一回り、三回りを要す」
と言われているので、参加者は21日間、青森県八戸市にある「金吹沢ラジウム鉱泉」の廃墟に寝泊まりします。
参加者は所定の場所に集合後、マイクロバスで「金吹沢ラジウム鉱泉」に向かいます。
バスの車中では導入となるオリジナル・オーディオブックの鑑賞が行われ、非日常の世界へ最初の一歩を踏み出します。
逗留中に何をするのかは詰め切れなかったのですが、「時間の止まった生活」を体験してもらう、ということだけは考えていました。
念頭に思い浮かべていたのは、ヨーロッパの修道院を撮影したドキュメンタリー映画『大いなる沈黙へ』。
大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院 [DVD2枚組+CD1枚組]
修道院のリズムに則って、決まった手順で決まったことを反復する生活を送ることで、修道士たちは何らかの変化を体験します。
デジタル機器を封印して頂き、修道院に紛れ込んだような、あるいは歴史が始まる以前の世界に迷い込んだような、そんな体験をしてもらうことを目指していました。
都合の良いことに、この地はほんの数年前に閉鎖したばかりの真新しい廃墟で、周囲は森に囲まれています。
「ラジウム温泉」というその名の通り、この温泉には放射線が含まれています。
放射線は、何万年という半減期を必要とする放射能を連想させますが、正にも邪にもなり得るその水が湧き出るこの地は、ある意味聖地と言えるでしょう。
偶然に導かれて見つけたラジウム温泉
この温泉の廃墟をみつけたのは、半ば偶然です。そもそも八戸へ来たのは初めてで、土地勘は全くありません。
八戸を選んだのも、「古い銭湯が東北で一番多いから」という理由からでした。最初は銭湯をつかうという事を考えていたのですが、じつは東北には古い銭湯がほとんど存在しないのです。
それで一旦温泉にも手を広げたのですが、仙台在住の参加者から「漁師町である八戸には朝湯の風習がある」と聞き、急遽八戸行きを決定。昭和初期の銭湯など、朝湯を含めて3軒ハシゴしたもののピンと来ません。
予備知識ゼロの状態から現地で血眼になって、手がかりになりそうな場所を探しました。なにかに導かれるように、第33回すばる文学賞を受賞した木村友祐さんの小説『海猫ツリーハウス』のモデルになったスローカフェに足を運んだところ、店に置かれた写真集にラジウム温泉が掲載されていたのでした。
八戸初訪問にもかかわらず、わずか2日半でこんなディープな場所を発見できたなんて、自分でもびっくりしました。俗に言うセレンティピティという奴でしょうか。
プレゼン後の反応
講師からの講評は、以下の通りでした。
「金吹沢ラジウム鉱泉」という着眼自体が大変面白く、
さらにそこに3週間のコミューンを創出するというプランが
すでにプロジェクトとして十分に魅力的なので、
あとはその縦軸に、どれだけ豊かな横軸を折り込めるか、
という感じがします。
かなりの予算が掛かること。
八戸市の郊外という交通不便な場所にあるため、集客が難しいこと。
企画者である自分に知名度がなく、助成を受けるのが難しい上、実現しても評価対象として扱ってもらうのが難しいこと。
そんなこともあって、プランを提出しただけでお蔵入りさせたプランです。
しかし近年、デジタルデトックスという言葉が一般的になり、すこし受け入れられる余地が出てきたかな、と感じるようになりました。
……以上、長々と書きましたが、要するに「ライター業以外にも、こんなこともしているよ」というお話でした。
今日の記事は以上です。
またのお越しを、お待ちしております!