メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

首都圏版・珍日本紀行!東京の間近で水浴びを楽しむ牛の群れ その3

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新型コロナウイルスの影響で遠方への旅行へ出かけづらい世の中となりました。そこで足元を見直す流れが出てきています。
東京圏在住だったら、関東近県の良さを見直すということですね。

今一度関東平野を眺めてみましょう。
意外な穴場や見過ごされてきたあれやこれやが見つかると思います。

前回、前々回に引き続き、2011年に『レポ』からのお蔵出し3回目です。

牛の誤解を解いておくよ(3)〜走るホルスタイン

 牛の群れをカメラで追っていると、思いのほか時間が経つのが早い。3時半を廻った頃だろうか。一台の軽トラックが現れ、牛の脇をすりぬけるように疾走した。牛の首の辺りでなにやらいじっている。綱を解いているのだ。慣れた手つきで、次々とホルスタインやら黒いのやらを自由にしていく。そのすばやさは瞬速といっていい。のんびり移動をはじめた牛たちを急き立てるように走る白い車体。青々した土手草を駆けるその姿は、大平原をいく馬賊を連想させた。

 ちょうど河っぺりで車が止まったので、近寄って話を聞いてみた。運転していたのはすぐ近くの酪農家で、毎日この時間になると牛に帰り支度をさせるという。どの家も三時半から四時半くらいになると、牛を帰らせるようだ。ちなみに朝は7時半頃牛を出してやるとのこと。川下りの際、船頭が行っていた「牛がひとりでに帰る」という件を確認したところ「そうだよ。綱を解いてやると勝手に牛舎の自分の場所に戻るんだよ」との答えだった。

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 とはいえ、すべての牛が毎日牛舎と土手原を往復しているわけではなく、肉牛を一晩中、川原につないでおくこともあるそうだ。いまも川原に残す牛に干草をやるところだとのこと。この流域一帯にいる牛は牝牛や子牛が中心で、牡は成牛になる前に県の中北部へ連れて行くという。ここで育てても茨城県産ブランド牛である常陸牛として認められないからだ。牛たちは巨大なフォークで目の前に盛られた干草を夢中になって食みながら、ときどきこちらを盗み見ていた。猫たちが無関心を装いつつも、離れたところから私達を見やるように、動物には種による独特なふるまいがある。牛の癖はなかなか興味深い。とにかく臆病で慎重なのだ。そのくせ突発的に重戦車のような機動力を見せることもある。

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 土手を越えたすぐ向こう側は アスファルトの一本道が走っていて、ときおり自動車が通り過ぎる。牛の群れが通せんぼして渋滞が起きたら面白い。インド、アフリカ辺りの田舎では旅情を誘う定番の光景である。いい絵になるだろう。期待して待つことしばし。ついに牛の群れが動き出した。尻尾をぶらぶらさせながら、数頭ずつかたまって順繰り順繰り土手を越えていく。しかし羊やらくだのように牛は長い列を作ってくれない。牛が車道を横切っても、数頭やり過ごせば列が切れるので、ちっとも通行の邪魔にならないのだ。環境に適応した結果だろうか。ううむ。マナーがよすぎておもしろくない。畜生と悪餓鬼は手に余ってなんぼだろうが。

 まあ、いい。とりあえず写真を撮っておこう。と、こちらにお尻を向けた牛の行列をパシャパシャカメラに収め、さぁ、正面向きのカットも撮っておこうかと、群れの脇を追い越そうとしたときだ。私の足音を聞きつけたホルスタイン御一行様が突如、走り出したのだ。息もぴったりのロケットダッシュである。どどどどど。は、はやい。あののんびり屋のどこにこんな走力があるというのか。白と黒のまだら模様があっという間に遠ざかっていく。呆然。……走るホルスタイン、はじめて見た。