メケメケ

メケメケ

町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

首都圏版・珍日本紀行!東京の間近で水浴びを楽しむ牛の群れ その4

f:id:yanvalou:20201003122323j:plain


新型コロナウイルスの影響で遠方への旅行へ出かけづらい世の中となりました。そこで足元を見直す流れが出てきています。
東京圏在住だったら、関東近県の良さを見直すということですね。

今一度関東平野を眺めてみましょう。
意外な穴場や見過ごされてきたあれやこれやが見つかると思います。

2011年の『レポ』からのお蔵出し最終回です。

牛の誤解を解いておくよ(4)〜大きな図体して臆病なんだから

 行ってしまったものは仕方がない。振り返ると、まだ数頭の牛が土手際でたむろしている。さぁ、僕らもそろそろ帰ろうか、という按配らしい。

 と、私が視線を向けた瞬間である。こちらに踏み出そうとしていた牛たちが、ビクッと硬直したのである。明らかに私のことを警戒している様子だ。牛舎へつづく一本道で待ち構える私。こいつはいったい何だ。僕達をどうするつもりなんだ。車道脇の3頭が身を寄せ合うようにしてこちらの様子を覗っている。大きな身体して、どこまで臆病なんだ。歩いてきてくれないと写真は撮れない。かといって私から近づくと、逃げてしまうかもしれない。

f:id:yanvalou:20201003122623j:plain

 膠着状態に陥るのはよろしくないので、撮影に支障がない程度に畦道によけて、待つことしばし。ようやく1頭の黒ぶち牛が悠然とやってきた。その眼は片時もわたしを捉えて離さない。私の横を抜ける際に見せたその表情は、明らかに威嚇している風だ。人間で言えばメンチ切ってる図である。「僕はこんな奴怖くないぞ」と虚勢を張っているのだ。なんだかへたれな中学男子を見ているようで、ほほえましい。黒ぶちは私をパスすると、ヴモーと一声啼いた。この勇敢な行動に励まされたのか、遠巻きに様子を覗っていた3頭も歩き出した。彼らはひたすらまっすぐ前だけ見ていた。私を見ないようにしているのが一目瞭然である。平常心。平常心。と自らに言い聞かせている風であった。きっと彼らの心臓は早鐘を打ち、肩の筋肉はこわばっているにちがいない。

 あまりにも滑稽な小心ぶりに、ついついからかいたくなってきたが、あさましい気もしたので撮影に専念した。

 童謡「ドナドナ」の世界とはずいぶん違う。牛たちはかなり臆病で、その大きな図体とのギャップがおかしみを誘う。特に肉牛は、将来常陸牛としてスーパーの生鮮食料品売り場にパック詰めされた姿で陳列されるわけだが、鶏などと違って頭がいいせいか、どうしても上から目線で見れない。1頭1頭個性があるし、なにか工事現場の片隅で左官仕事をしている寡黙な中年職人のおやじが、家に帰って「おかあちゃん」から邪険にされてぼやいている姿というか。1頭2頭ならともかく、家庭で肩身の狭い職人おやじ然とした牛の群れが、一列になって田舎道をいく図は、なんともいえないペーソスにあふれていた

 牛たちはつぎつぎと歩み去っていく。なんだか人間くさい振る舞いを見ているうちに、「ドナドナ」のことは忘れていた。

f:id:yanvalou:20201003122435j:plain