メケメケ

メケメケ

町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

横浜からブックカフェに行くとしたら、ここしかないでしょ?

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ども。檀原(@yanvalou)です。

このブログはライターブログを標榜しています。
ですので出来るだけローカルなネタはやらないようにしよう、と考えていました。
しかし「このお店は紹介しないといけないな」というお店がありますので、今回はその話を。

横浜・川崎エリアに住んでいて、ありそうでないのがブックカフェです。
TSUTAYA が併設されたスタバならありますが、だいたいどこも混雑していませんか
本が揃ったお店で、落ち着いて読書したい。
そう思っても、横浜にはそんなお店がありません。

仕方がないので都内に行くか、どこかに行ったついでにその手の店に立ち寄るか、という選択になります。
しかし一軒だけ、良いお店があるのです。

そのお店は「ブックカフェ羽月(うづき)」。
残念ながら横浜でも川崎でもなく、羽田の穴守稲荷のお店です。しかし羽田って大田区とは言っても、都下のようなものですよね。
町工場と労働者、煮染めたような酒場と黒湯の温泉でごった返す「昭和の街」蒲田から一足の距離にあるせいか、羽田は台東区の街並みと似ています。典型的な下町なのです。

そんな下町のお店が「羽月」。
たまたま羽田に散策に来たときに見つけたのですが、一発で気に入りました。

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羽田の歴史を描いた絵本が面陳された店内。幅広い年齢層に目を向けています。

特別お洒落でもなく、エッジの効いた選書が光っているわけでもない。
でも親しみやすさとあたたかさを感じるお店なのです。

これは別の方のブログを読んで知ったのですが、このお店、昭和30年にオープンしたときから「食堂半分・書店半分」だったそうです。
現在の店主で三代目とのこと。
道理で飲食と本のマッチングが堂に入っている訳です。
改装してカフェが出来たのは2010年。

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このお店の売りの一つが「はねだぷりん」。
申し訳程度の写真しか撮っていないのですが、いくつか種類があり、行くたびに楽しめます。

いわゆる「カフェめし」的なご飯ではなく、洋食屋さん的な食事が出てくるのもうれしい。
ついつい長居してしまいます。
スタバに着かれたあなたに、是非お薦めしたいお店です。

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ブックカフェ羽月(うづき)
東京都大田区羽田4-5-1
穴守稲荷駅から53m)
http://uduki.cafemix.jp/

今回の記事は以上です。
またのお越しをお待ちしております。

育児疲れの入院がきっかけで、絵を描き始めた主婦の話

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2015年7月9日に取材した横浜市栄区の「小さなパステル画」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。

 絵画の癒やし効果。

 この数ヶ月間、絵画教室の取材を重ねているが、絵画と癒やしの結びつきを直接感じたのは伊藤ゆうこ先生の「小さなパステル画教室」が初めてだった。

  パステルは粉末状の乾いた顔料を粘着剤で固めた画材で、脂分の少ないクレヨンのような感じである。鉛筆やクレヨンのような使い方もできるが、カッターナイフで削って粉末状にし、指でぼかし気味の線を描くことも出来る。

 伊藤さんには二人の息子さんがいるが、長男が小児喘息を患っていたという。横浜市瀬谷区三ツ境にあった「横浜アレルギーセンター(現在は閉鎖)」に子供を預けたところ、育児疲れが見て取れたのか、主治医から「あなたも入院していきなさい」と進められたそうだ。この病院は「横浜二ツ橋学院」という院内学級にしてはかなり大きな学校を併設しており、子供の長期入院に対応した施設だった。

 入院中、週1、2回レクリエーションの時間があった。伊藤先生はここでパステル画に出会ったのだった。元々絵は好きだったが、美術の成績はダメだった。しかしパステル画はしっくりきた。続けたいと思ったが、当時はネットで調べても情報はなく、退院してしまうとそれっきりになってしまった。15年ほど前のことだ。

 それから何年か経った頃、「パステル和(NAGOMI)アート」のウェブサイトを発見。さっそく通うことにしたのだった。

 講師になる気はまったくなかったものの、当時はインストラクター養成コースしかなかった。カリキュラムは3日間で20〜22枚のパステル画を描き上げるというもの。朝10時〜夕方6時までと時間が決まっているので、かなりのハイスピードで仕上げなければならない。

「講師も生徒と一緒になって絵を描くのが『和』のスタイルなんですよ。教えながら描くので、生徒よりも早く描けないと都合が悪いんです。生徒も安心できませんしね。

 ところがなぜハイスピードで描かなくてはならないのか、なぜ3日掛かりでやるのか、受講中に理由を教えてもらえなかったんですよ。実際のところ、3日間つづけて体を空けられる主婦はなかなかいません。費用も決して安くはないですし、受講するハードルが高いんですね。だから自分がインストラクターを養成するときは、『1日8時間を3日間』という形を崩して『6時間を4日間』とか『4時間を6日間』、一番極端なときは『2時間を12日間』に分けて教えていました」。

 実際のところ、インストラクターとして活動する人は少ない。皆が皆、インストラクターになりたいわけではないのだ。1枚1枚ていねいに描きたい人もいる。伊藤先生は通常のクラスでは「1枚2時間くらいで」と伝えているという。

「ただしインストラクターコースの人は完全に分けて考えていて、早く描くように言っています。インストラクターの話は誰にでもしているわけではなくて、何度も質問してくる熱心な人、5回も6回も通ってくる人、など狙った人だけにしています。声掛けした方はだいたいインストラクターになるのですが、ただやはりなかなか声は掛けられませんね」。

 仮に資格を取ったとしても、よほどモチベーションが高くない限り、一介の主婦が教室を立ち上げることはない。伊藤先生自身、講習を終えてから3年の間、資格を眠らせていたという。

「そういう訳で『和』の規定に沿ったクラスとは別に『自分で楽しめる程度の技法』に絞った小さい絵のクラスも始めました。それが教室名にもなっている『小さなパステル画』です」

 通常の「和」のパステル画は15センチ四方の用紙に描くが、「小さなパステル画」はハガキサイズの紙を使う。小さな紙のほうが、より気軽に描けるからだ。じつは初期の教室名は「おひさまの詩」だったそうだが、生徒たちが「小さなパステル画」と呼ぶうちにこの呼び名が定着したのだという。

 工夫したのはサイズだけではない。画材に関しても柔軟に対応している。協会推奨のパステルは48色で約1万円する。しかし100円ショップで買えば、36色になってしまうものの100円である。これなら気軽に参加できるというものだ。

 もちろん100円のパステルは値段相応の「安かろう悪かろう」で、柔らかすぎて手につきやすい。しかし初めから納得していれば、我慢できるレベルだ。逆に1円玉でも削れるほど柔らかいので、カフェの一角で教室を開く(後述の「さんぽみち」でのクラス)とき、一般客に気兼ねせずに済むというメリットがある。流石に大勢でカッターを使っていると、気をつかわざるを得ないのだ。

 受講料も現実に即して設定した。

「『和』では推奨料金として1回3千円という価格が出ていたのですが、自分の周囲の主婦がちょっとお試しで受けるには高いと感じました。そんなとき、『栄公会堂』の地下にある『ふれあいショップさんぽみち』というカフェからお声が掛かりました。ここは重度障害者の方が働いている支援施設なのですが、利用者が少ないため教室をやってほしい、と言われたのです。公共施設ということもあり、3千円は高い。そこでコーヒー代込で700円にしました」

 数回で終わると思ったこの教室は好評で、予想に反して2年半ほどつづいたという(終了した理由は「さんぽみち」の閉店)。取材日当日はちょうど「さんぽみち」の代りに始まった新しい教室の初日だった。

「自宅を含めて数カ所で教えていますが、ほとんどが本郷台エリアです。どうも自宅教室は来にくいようですね」。

 前述のカッターの件も自宅で教えれば解決しそうな話だが、人様の自宅にお邪魔することに抵抗感を持つ受講者も少なくないという。そこで自宅教室の他に前述の「さんぽみち」や生涯学習センターなどで教えることにしたのだ。これは偶然が作用した面もある。教室を始めてまだ日が浅かった頃、栄区生涯学習センターにチラシを置いたところ「体験レッスンを開いてみませんか?」と声を掛けられ、宣伝もチラシづくりもすべて館の担当者がやってくれた、というラッキーな出来事があったのだ。

「大きな公共施設で体験レッスンをやると人が来てくれますね」。

 逆に自宅でやるメリットもある。

「自宅教室のメリットは忘れ物の対応ですね。時間の融通が利くのも利点で、生徒さんが『もっと描きたいです』と言えば、延長しています。長い人だと2時間のレッスンに来て4時間粘っている、ということもありますね」

 参加者の平均年齢は50歳くらい。40代以降の女性が多いという。

「みなさんが嬉しそうな顔をしているとき、やってて良かったと思います。皆さん、隣の方の絵が気になるようですが、家に帰って自分の絵を飾ると案外悪くないな、と感じるようで喜んでいただいています」。

 パステルは絵の初心者にも取り組みやすい画材だ。水彩画はポピュラーだが、薄い色から描き始めなければならず、間違って濃くしすぎるとやり直しが効かない。一方パステルなら色の濃淡を気にせず好きな色から塗れる。ハードルが低いのだ。

「やっているうちに絵が巧くなるというより、色の使い方が巧くなるというイメージですね。同時に指に圧の掛け方も上手になります。だんだん変わってくるのが感じられると思います」と先生は上達の過程について説明する。

 今年(*2015年当時)の6月までは上記の「さんぽみち」で頻繁に展覧会(温習展)を開いていたので、それが参加者の励みになっていた。この会場がなくなってしまったことが残念だが、新しい会場でひきつづき頑張ってもらいたい教室である。

小さなパステル画(ちいさなパステル)
主催者:伊藤 ゆうこ(いとうゆうこ)
住所:横浜市栄区柏陽
http://ohisama.lolipop.jp

 

【旅×仕事】人気は、旅に出ない人のガス抜きに過ぎない。でも……

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ども。檀原(@yanvalou)です。

数年前から世界を旅しながら仕事するという「職業=旅人」が人気ですね。
ネットをさまよっていると、こんな文句がゴロゴロしています。

 旅することの意味

 旅して学んだ人生のあれこれ

 人生を変えた旅のエピソード

 旅があなたを自由にする

 などなど……。

どうもピンと来ないんですよね……。

今回は僕の旅の話を少しだけしましょう。
現在までに訪れた国は13ヶ国です。決して多くありません。むしろ旅のプロを自称する人たちから見たら、少なすぎるでしょう。

23歳のとき、ピースボート(以下 PB) の世界一周クルーズに申し込みました。
いまでこそPBの世界一周ツアーはありふれていますが、そのときはまだ実施2回目でした。つまりまだ目新しかったんです。

しかし僕は出発の少し前にキャンセルしました。
なぜか。
気がついてしまったんです。「世界一周」とは言っても、陸地にいる時間よりも船にいる時間の方が長いということに。

船旅は「有り余る暇な時間をいかに過ごすか」というのんびりした旅です。
PBは、いまや有名政治家となった辻元清美の立ち上げた団体ですから、リベラルな立場に基づいた討論が大好きです。
だからせっかくトロピカルな国・ジャマイカに行っても敢えて観光客のよりつかない、ひなびたビーチに行って現地の暇人と遊んだり、パナマのドラックリハビリ施設を見学した後に、船でその手の問題について討論したり、著名な論客を招いて船上で講演してもらったりします。
それ以外の時間はフィリピン人シェフのつくる毎日同じような食事をビュッフェ形式で食べ、同じくフィリピン人バンドのだるそうな演奏を聴きます。
僕はそういう旅は嫌でした。

「世界一周が夢」という人はたくさんいます。
そしてほとんどの人は、その夢を実現することなく一生を終えます。
あのまま一周するのは簡単でした。
しかしPBの世界一周は、僕の好みではありませんでした。
いくら「海外」と言っても、日本人に囲まれながら移動するのは海外旅行ではない。そう思ったのです。
だから思い切って辞退しました。

ところでPB に参加したことのある方ならご存じだと思いますが、PB では「ボラスタ」と言って、チラシのポスティングや張り紙、その他の手伝いをすると時給千円換算で乗船料から割り引いてくれる制度があります。
僕は一周ツアーはキャンセルしたものの、20万円分割引の権利を手にしていました。

この20万円分の権利がもったいない。

そこで一周クルーズのうち、19万8千円分に該当するニューヨーク〜ガテマラ間だけ部分参加することにしました。そして日本からニューヨークまでは2ヶ月間掛けてアメリカを横断してニューヨークで船と合流。帰りはガテマラで降りて、中米を寄り道してから帰るというプランを立てました。
世界一周に使うはずだった予算をアメリカ放浪に廻したわけです。
はじめての海外(ほぼ)一人旅。3ヶ月弱におよぶ旅程でした。
これが僕の長旅の原点です。

最初の訪問地はポートランド
いまでこそ独自のライフスタイルで有名な街ですが、当時はまったく知られておらず、ガイドブックでは「アメリカらしからぬ優等生の街」と紹介されていました。
ポートランドに行ったのは、チケット屋の店員さんが「ポートランドには行かないんですか? あそこは本当に良いところですよ!」としつこかったからです(笑)
当時は現在のようにオンラインでチケットが買える時代ではなく、店頭で買う時代でした。
もしネットで予約していたら、サンフランシスコに飛んでいたでしょう。
チケットを買うところから、すでに旅が始まっていた訳です。

ポートランドの空港で降りて、空港職員に街まで行くバス停の場所を訊いたとき。
海外ではじめて自分の英語が通じた瞬間でした。
あのときのことは今も鮮明に覚えています。

そこからアメリカの街をたくさん泊まり歩きました。

しかし40日を過ぎた頃、自分の内面に変化が訪れました。
あたらしい街に来たときの行動がルーチン化しはじめており、旅が日常化していたのです。
もう旅は非日常ではありませんでした。
単なる知らない場所への移動でした。

僕がちいさかった頃は、転校生という設定でサーカスの子供がクラスにやって来る、という学校ドラマが放映されていた時代でした。
たいていの場合、クラスの子たちは旅暮らしをつづけるサーカス団の暮らしをうらやましがります。

しかしサーカスの子にとって旅は日常。
決まった街の決まった家で寝起きする生活こそが、非日常なのです。

僕がアメリカ横断中に体感したことは、まさにこういうことでした。

「旅を仕事にする」ということは、旅が「単なる移動の連続」になるということです。
旅先に、なにか強烈な目的がない限り、もう僕は旅を楽しめません。
その「強烈な目的」は、たしかに仕事であることが多いのですが、「旅を仕事にする」というのとはかなり感覚が違います。

結局、【旅×仕事】が人気なのは、長い旅に出たことのない人のガス抜きとして需要があるからなのでしょう。

【旅×仕事】という生き方は、昔風にいえば旅芸人の世界に近いものです。
盲目の旅芸人、瞽女(ごぜ)さんの旅を羨ましいと思いますか?
トレーラーにゆられるプロレスラーのどさ回りは、まぶしいですか?


矢沢永吉-トラベリン・バス【歌詞付】

ヤザワじゃないですが、ほんとに「きつい旅だぜ、お前に分かるかい? あのトラベリン・バスに揺られて暮らすのは」の世界ですよ……。
L.A.〜ニューオリンズまで3日間バスに揺られたときなど、ホントにキツかったです。
先進国アメリカのバス旅でさえたいへんなのですから、第三世界のギュウ詰めバスのガタガタ道行路など想像を絶しますよ。
もちろん【旅×仕事】で自由な生き方を目指す人たちは、トラベリン・バスには乗らないとは思いますが。

とは言え、僕も息抜きで行く1日〜2日程度の旅は僕も好きですけどね。

現在の僕にとって、刺激的な【旅×仕事】は誰も知らないテーマを深掘りする取材旅行か、ライター・イン・レジデンスです。

今回の記事は以上です。
またのお越しをお待ちしております。

セーラー服が日本に定着した理由に肚落ち

「セーラー服」とか「女子高生」と言うと、元気で明るくて浮ついたイメージが思い浮かびます。
女子高生(「JK」なる言葉は敢えて使いません)を肯定的に捉える人は大衆的で親近感が持てる人、否定的に捉える人はひねた人でしょう。
自分は後者でした。

清純な乙女というのには興味がないし、そういうものが好きなのは格好悪いことだと思っていたのです。
どちらかというと不良少女とか、90年代の出始めの頃のコギャルとかの方が好きです。
こういう僕は、きっと損をしていたのでしょう。
自分の可能性やら好奇心やらに、重いフタをしているのかもしれません。

先日、そんなことを気づかされた展覧会に行って来ました。

東京・文京区の弥生美術館で開催中の「セーラー服と女学生 ―イラストと服飾資料で解き明かす、その秘密―」です。

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弥生美術館は東大本郷キャンパス(赤門や三四郎池があるところ)のすぐ裏手にある、ちょっと古めかしくもモダンな空間です。
昭和モダンを代表する画家、竹久夢二高畠華宵のふたりを常設展示しています。
竹久夢二は現在も有名ですが、肉筆画がいつでもみられるのはここくらいではないでしょうか?

 

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さて「セーラー服と女学生」展です。
セーラムーン誕生25周年】という企画が絡んでいたらしいのですが、セーラームーンの扱いはそれほど大きくありません。
むしろポスターにもなっている中村佑介の方が大きく取り上げられていたと思います。

この展覧会のコンセプトは

本来、ユニセックスなファッションのセーラー服が日本で女学生服として定着し、100年もの間、愛される秘密と魅力に迫る

でした。

19世紀中頃にイギリスで誕生した海軍の制服が、なぜ、日本においては女学生服として定着し、100年もの間、愛されているのか?

この疑問をイラストレーションと服飾資料によって迫る、というのが基本路線。

服飾研究家の方に大々的に協力して頂き、日本で最初のセーラー服といわれる京都の平安女学院の制服を復元したり、同校とほぼ同時に登場した福岡女学院の夏服と冬服(当時のもの)を展示したり、とかなり本格的です。

東洋英和女学院、都立八潮高校、都立第五商業といった高校の工夫を凝らしたタイ結びの解説など、マニアックな展示もあります。
正直な話、女子高生のタイ(というかスカーフ)の結び方なんて、一度も気にしたことがありませんでした。学校によってちがうんですね。

その他、文字通りお嬢さん学校だった戦前の女子高生ライフを、当時の雑誌などから探るということもしています。

7、8年くらい前だったでしょうか。戦前の乙女雑誌『令女界』の愛読者だった、というお婆さんを取材したことがあるのですが、そのときのことを思い出しました。
当時は雑誌主催のオフ会というものがあり、人気作家といっしょに若い女の子たちが20人くらいいっしょに集まってお喋りに花を咲かせていたということなのですが、意外とやることは変わっていないというか。

勿論ちがう部分もあり、最も驚いたのが、セーラー服を導入してまだ歴史が浅かった頃の女学校には「百合」的な文化があり、卒業するとき先輩が後輩に手縫いのセーラー服を送るという風習があったのだとか。


弥生美術館「セーラー服と女学生」1階

初期のセーラー服はワンピースで、スカートのギャザーの部分以外は和裁の技術で縫製出来たのだそうです。
この「和裁でつくれる」というのが、まだ洋服の普及率が低かった当時の日本でセーラー服が受け入れられた理由の一つだそうです。

セーラー服が日本で定着した理由がもうひとつあります。
これは日本女性にとって不名誉なことかも知れないのですが……もともとセーラー服は軍服だったのですが、欧州ではなぜか子供服として人気が高かったのだそうです。
日本に入ってきたときも、政府のお抱え外国人の子供や宣教師の子供たちが普段着として着ていました。
戦前の女性はみんな和服を着ていたというイメージがあります。
しかし実際には、明治時代から若い女性たちの間には洋服に対する憧れがありました。
ただし世間体や価格の高さ(洋服は本当に高価だったようです)が災いして、普及しなかったのです。

女学校が洋風の制服を導入すると決めたとき、いくつかのアイデアがありました。
そのとき一番支持されたのがセーラー服だったのだそうです。

その理由は

  1. 身体の線が出ない
  2. 活動的に見える

というものでした。

1番目の理由と関係するのですが、セーラー服はすとんとした直線的なシルエットです。
女性の曲線美を隠すスタイルです。
だからこそ子供服だったのですが、戦前の日本女性は幼児体型でしたから、逆にこれが似合ったのです。
さらに戦前のセーラー服はスカートの裾が長く、ワンピースでベルトを締めるタイプでした。
洋服でありながら身体の線を気にせずに済み、露出が少ない。
したがって和服から移行しやすかったにちがいありません。

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つまりこういう現在のセーラー服とは別物なのですね。

セクシーダイナマイトな女の子にはセーラー服は似合いません。

白人や黒人は発育がよく、高校生ともなれば「ボンキュッボン」のメリハリ体系ですから、セーラー服は似合わないのです。
つまり日本人のマイナス面をプラスに変えてしまう効果があったという訳。
セーラー服は日本人の女の子のかわいらしさを引き出す服だったんですね。
だからこそ愛されつづけているようです。

現在のセーラー服はスカートの丈が短くてまぶしいくらいですが、これはセクシーアピール出来る場所が丈の長さしかないことの裏返しなのでしょう。

ちなみに早い時期にセーラー服を取り入れた女学校の多くはミッションスクールで、学校のブランドイメージを高める戦略として洋風の制服を導入したとのこと。
「あの制服がかわいいから、あの学校に行きたい」という女心は、明治の頃から変わっていないのですね。

いろいろ勉強になる展覧会でした。

6月24日(日)まで開催されているので、ご興味がある方はどうぞ。
帰りは戦前のモダン文化を忍んで朝倉町彫塑館とか旧岩崎邸庭園あたりに行くのがお薦めです。

今回の記事は以上です。
またのお越しをお待ちしております。

インタビュー音源の文字起こしに関する、いくつかの私的ノウハウ【後編】

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ども。檀原(@yanvalou)です。

さて後半を書こうと思っていたところ、テープ起こしにまつわる面白いイベントを発見したしました。

期日は7月15日(日)。場所は原宿だそうです。

若柳宮音筆の会 特別講「サクラバ姉妹(?)にテープ起こしの奥義を見る」

「かつて働いていた出版社では、政治家や著名人のインタビューのテープ起こしを昔から一手に担ってきた『サクラバ姉妹』と呼ばれているユニットがいる。ただし、ほとんど誰も、彼女らには会ったことがない」……という幻の仕事師ユニットがゲスト講師としてと登場。テープ起こしの奥義を伝授するというものです。

当日のレポート記事を執筆いただけるライターを募集いたします。掲載メディアは未定ですが、原稿料8,500円を音筆の会にて、ご用意いたします。我こそは、という方は、アンケートにてその旨記載ください。

迷わず予約しようとしたところ、なぜか【申込停止中】になっていました(2018年5月14日5:14AM現在)。しかしあと2ヶ月あるので、また受付再開するんじゃないかと期待しつつ……さぁ後半戦に参りましょう。 

グーグル音声入力を使う

昨年あたりからポピュラーになっているのは、グーグル音声入力を使う方法。
2台のスマホ、もしくはスマホタブレットのコンビを用意します。
1台は再生専用。
もう1台は音声入力専用とします(こちらの端末はテキスト入力画面にしておきます)。

  • 1台の端末を Bluetooth(もしくは有線)でイヤホンと接続。
  • インタビュー音源を聞き取りながら、適当なタイミングで一時停止。
  • 聞き取った音声を、もう1台のスマホで音声入力します。
  • 誤入力はあとでまとめて修正。とりあえず最後(もしくは切りが良いところ)まで入力。
  • 仕上げ

という方法です。
多少の変換ミスはありますが、手入力より断然楽ですし、早いです。
今後 AI が進化し音声入力の精度が高まったら、テープ起こし職人は失職でしょうか……。

ここで童話に出てくる小人さんのように、寝ている間に自動処理する方法を編み出した方がいるので、リンクを貼っておきます。

Mac限定で自動化

note.mu

この方法は公開当時Twitterで見つけたのですが、まだ試していません。

というのは、元となる音源が相当きれいでないと使えない方法だと考えられるからです。
会議室やホテルの部屋などでインタビューさせて頂かないとむずかしいでしょう。
つまり法人相手の仕事のときに限定されるのではないかと思います。

とは言えトークイベントやカンファレンスで見かけるようになったUDトーク音声認識技術を使うことによりリアルタイムで字幕を作成する技術。いったん字幕を出した後、人間が補正する)の事例などを見る限り、マイクさえつかえれば場所はあまり関係ないのかも。
もっともマイクをつけた状態でインタビューできることはまずないでしょうから、しずかな場所できれいな音源をとることを心掛けなければならないと思うのです。

音声入力と「きれいな音源」

この「きれいな音源」という言葉をみると、個人的に苦い思い出が甦ってきます。
10年以上前に一度だけテープ起こしを外注に出したことがありました。
当時はまだ、ときどきテープ起こしをしながら記事を書いていたのです。

インタビュー場所は中目黒のフレッシュネスバーガーでした。
相手より早めに来て、ベストな場所とりをして待つのが僕のスタイル。
しかしこのときは早めに到着したにも関わらず、取材相手がさきに来てテラス席で待っていたのです。

テラス席はリラックスして話をするには申し分ないのですが、山手通りは人と車の往来が多すぎます。録音した音源はノイズが耳につきすぎて、テープ起こしがなかなか困難なクオリティーでした。
そういう訳で、面倒くさい作業を外注に出したのです。

当時はまだブログすらなかった時代で、もちろんクラウドソーシングなど影も形もありません。
ですがネット上で呼びかけて「2時間=8千円」という価格で、ボランティアを募りました。
4、5名の応募者があり、そのなかから「元・全国紙の新聞記者」という方にお願いしました。

ふつうはやらないことなのですが、書き起こしの参考にして欲しいと、インタビューのなかで出てくるすべての人物の名前や経歴、主な固有名詞、インタビューの背景などのメモを音源につけて渡しました。

ところが相手は、そのメモをまったく参照していませんでした。
人物名や固有名詞がことごとく間違っていたのです。
メモを付けたのは韓国人やアフリカ人など、聞き慣れない名前の外国人が会話のなかにたくさん出てくるためでしたが、メモをまったく見ていないためにいい加減な名称で書き起こしていたのでした。

それどころか「ノイズが大きいため、ボリュームを名いっぱい上げないと聞き取れない。お陰で夫婦ゲンカになった」などとさんざんクレームを付けてきて、あきらかに聞き取れる箇所も【聞き取り不能】と書いて寄こすような、酷い状態で納品してきたのです。

つまり新聞記者出身といえども、まともにテープ起こしが出来ないライターもいる訳です。

そんなことがありましたので、テープ起こしを外注に出すことは控えています。
逆に自分が仕事として受注することもありません。
苦い思い出です。


最後にテープ起こしを丁寧に書いたブログを紹介して終わります。

ozawashibu.com

もうひとつオマケ。
画像をLINEに送って文字化してくれるサービスです。
グーグルドキュメントに送って文字化する方法は割と有名ですが、LINEでも出来るようになったんですね。

今回の記事は以上です。
またのお越しをお待ちしております。

インタビュー音源の文字起こしに関する、いくつかの私的ノウハウ【前編】

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ども。檀原(@yanvalou)です。

数日前、某ライターさんがテープ起こしのノウハウをブログに書いているのを見ました。
それをみて自分視点で追加・捕捉したいことがあったので、公開しようと思います。

 【目次】
1.そもそもテープ起こしは必要か (前編)
2.正統的なテープ起こし方法 (前編)
3.音声認識を使う (後編)
4.自動化 (後編)

1.そもそもテープ起こしは必要か

のっけから正直に書いてしまいますが、ここ10年々くらいインタビュー取材をしてもテープ起こしはしていません。
外注に出しているわけではなく、音声記録のない状態で記事を書いているからです。
なぜか?

テープ起こしが上がるまで、待つ時間がもったいないからです。
テープ起こしのノウハウを書いた記事に「テープ起こし? いらないでしょ?」と書いているのを見たことがありません。しかし、やらなくても問題ありません
むしろやらない方が効率が良いと言えるでしょう。

ではテープ起こしをせずにどうやって記事を書くのか?

【その場でメモを取る】

これにつきます。

誰もがノートパソコンをもつようになった現在、講演会や取材中のメモをノーパソでカタカタとっている人を見かけることは珍しくなくなりました。
不要な会話を受け流し、重要な部分だけ書き残す。
これが一番効率の良い記録の仕方です。

とは言えノートパソコンをつかうと、せっかく話をする気になってくれている相手に警察の取調室や裁判所で感じるような、妙なプレッシャーを与えることになりかねません。

取材している側には伝わりづらいのですが、話をする側にとって、ノートパソコンでのメモ取りは取り調べを受けているような妙な居心地の悪さを感じさせるものです。

ここで生じる「見えない障壁」をどうするか。
別のテーマになるのでここでは書きませんが、なんとかする技術が必要となります。
この部分で悩みたくないのであれば、素直にインタビューを録音させて頂いてテープおこししましょう。

こう書くと初心者ライターは「一字一句正確に記録出来ないから、メモはまずいんじゃないですか?」
とか
「発言通り正確に書かないと、著作権的にまずいんじゃないですか?」
などと気にするかもしれません。
(少なくとも自分はそうでした)

後述しますが、インタビューの文字起こしは「ケバ取り」とか「整文」という作業を経ていく過程で、すこしずつ書き言葉の形に修正されていきます。
納品後、原稿を仕上げていく過程で事実関係の間違いや発言者の勘違いが判明した場合、その部分を直します。
また起承転結をもたせたり、話の流れを分かりやすくするために、話の順番を編集することも頻繁に行います。

したがって「一字一句正確に書くことにこだわっても意味がありません」。

もちろん内容を捏造したり、インタビュー相手の意に沿わない内容にすることは厳禁です。
しかし一字一句元の通りに書き起こすことにこだわっても、消耗するだけです。

 

それよりも効率を考えて、話の必要部分を正確に書きとめましょう。

 

じゃあ、テープ起こしはしなくていいの?

と訊かれそうですが、

  • 仕事としてテープリライターの業務を請け負いたい人
  • 憧れの人へのインタビューで、絶対に失敗したくない、万全を期したい人

 は、テープ起こしの技術があった方がよいと思います。
しかし一般論で言えば、テープ起こしは必要ないと感じます。

とは言え、記事が出来るまで「保険をかける意味で会話を録音しておく」ということには、もしかしたら意味があるかも知れません。

 

2.正統的なテープ起こし方法

現在はスマホ、もしくはICレコーダーで音声を記録するわけですが、mp3データを再生することさえ出来れば、一応テープ起こし出来ます。
つまり Mac ならQuickTime Player、Win なら Windows Media Player という OS 純正の付属アプリがあれば作業出来ます。

ただし効率が良いとは言えません。
やはり専用アプリがあると便利です。

【テープ起こしアプリに必要な機能】
  • 再生スピード調整
  • 一時停止からの再生再開の際、数秒前の位置に戻って再生出来る
  • (再生位置のマーキング機能=個人的にはいらないと思ってます)

僕は原則的に Macユーザーです。
ながらくテープ起こし用のアプリは Windows の世界にしかなく、Macユーザーは苦汁をなめていました。
そんな訳で Windowsで定番の「おこしやす2」をつかうためだけにWin機を引っ張り出してきたり、VMwareを立ち上げたりしていた時期もあります。

現在つかっている(というほど使ってませんが)のは ExpressScribe (有料)です。

www.nch.com.au


ほかに Transcriptions (有料)というアプリもあるようですが、自分的にはしっくりきませんでした。

Transcriptions

Transcriptions

  • David Haselberger
  • 仕事効率化
  • ¥360

どちらも数年前に探したものですから、2018年現在はもっとよいアプリが出ている可能性があります。
それぞれのアプリの使い方については、詳しく書いている方がいらっしゃるのでググって下さい。

ひとつだけ強調しておきたいのは、

手打ちで文字おこしする場合、フットペダルは必須

と言うことです。

フットペダルというのは、自動車のブレーキとかミシンの足踏みペダルのような形をした入力デバイスです。
パソコン用品店に行っても、まずお目に掛かることはありません。
しかし Amazonなどの通販では、かなり色々な種類を取り扱っています。

手入力だけでも作業出来ますが、フットペダルがあると効率がちがいます。

再生/一時停止 をフットペダルで操作するのです。

プロのテープリライター(テープ起こし職人をこう呼ぶ)はみんな三連のペダルを使っているらしく、
再生/一時停止に加えて早送りや巻き戻しを足で操作しているようです。
しかし三連ペダルはとにかく高価。
プロのリライターとして食べていくつもりがないのであれば、シングルペダルで充分です。

ちなみに僕が使っているのは、以下の2千円しないものです。

フットペダルを使う場合に注意することがあります。
それはアプリによっては、フットペダルに機能を割り当てられない場合があることです。
どういうことかというと再生や一時停止、早送りなどの動作をコンビネーションキー(キーボードのキーをふたつ以上同時に押すこと)でしか割り当てられないアプリがあるのです。
フットペダルの場合でも「フットペダル+Alt(Cmd)」などと出来る場合があるのかもしれませんが、それも面倒です。

  • フットペダルを単独で一回踏むと一時停止。
  • もう一度踏むと(数秒前の位置から)再生

となるアプリが理想です。

ExpressScribe はこの条件を満たしていました。

余談

かつてはテープ起こしでご飯が食べられたらしく、専門会社もいくつかあるようです。
たとえば僕の地元・横浜ではこんな会社があるようです。

voicefactory.net

第36回大宅壮一ノンフィクション賞受賞の稲泉連さん(母親もノンフィクション作家で、やはり大宅賞受賞者の久田惠さん)や、劇作家・小説家の岡田利規さん(第49回岸田國士戯曲賞、第2回大江健三郎賞受賞)は、テープ起こしで生計を立てていた時期があると聞いたことがあります。

アーティスト・インタビュー:岡田利規 | Performing Arts Network Japan

しかしクラウドソーシングの登場で、考えられないほど安い値段で発注がかけられるようになりました。


価格破壊が進んだため、今後もプロが活躍しつづけられるのか、なんともいえない部分だと思います。

 【後編につづく】

 




白と茶色の鎮静空間でコーヒーを楽しむには

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Photo : Noémie D. www.flickr.com
2015年5月18日に取材した東京・世田谷区のコーヒー店 「クラウド・ナイン」(当時)の紹介文です。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
記事の内容は取材時のものです。

「周囲が気にならない『個室のような空間』でコーヒーを楽しんでいただきたい」。

 ゆったり配置した座席と存在感のある焙煎機。ほどよい照明。ゆるめのソウル・ミュージック。白と茶色の2色でまとめられた鎮静空間。「クラウド・ナイン」は全席ソファーの落ち着いたお店である。さぞかし気を使ってカフェ経営をしているのだろう……という印象を持ったのだが、

「じつはうちはビーンズショップなんです。豆の売上が7割以上。席はシートいうより、試飲スペースというイメージですね」

とオーナーの中根大志さんは語る。

 おしゃれなカフェに見えた同店だが、じつはコーヒーロースターなのだった。

 近年コーヒーの世界でトレンドとなっているのが、「サードウェーブ」と呼ばれる浅煎りの「シングル・オリジン」豆を抽出する方向である。「シングル・オリジン」とは単一の農園で収穫した同一種の苗木から収穫した豆のこと。これまでコーヒーの世界にはワインのように産地ごとに味覚のちがいを楽しむという文化がなかった。そのちがいを楽しむのが「サードウェーブ」の特徴なのだ。抽出にも特徴があり、ハンドドリップが重視されている。

 ところが「クラウド・ナイン」は「サードウェイブ」とは少し違うのだそうだ。もちろん浅煎りのシングルオリジンも扱ってはいるものの、そこに囚われてはいない。もっとも特徴的なのは、ブレンドづくりに力をいれていることだ。中根さんは「良いブレンドを作りたいから、良いシングルオリジンを入手するように心掛けています」と語る。

 中根さんが提供しているブレンドは、現在4種類ある。その内訳は定番が3種類と季節ごとに変わるシーズンものが1種類だ。時期によっては、ブレンドが5~6種類に増えることもあるという。

 異なる風味をもつ豆をセレクトして自分好みのブレンドを作り出すのは、楽しい作業である。しかし一年を通じて味を安定させるのは、非常に難しいそうだ。コーヒーは農作物である。季節によって味が変化するのだ。変化が特に大きいのは、端境期とよばれる2月から3月にかけて。古い豆から新しい豆に切り替わる時期なので、変化も大きいという。中根さんは毎朝夫婦でコーヒーを試飲し、味に変化がないか話し合いをする。そして必要があれば、基準になる味を維持するために配合を変える。配合調整の頻度は年6回以上にもなるという。

  こうして手間をかけた「クラウド・ナイン」のブレンドは高い評価を勝ち得ており、都内のみならず長崎や大阪などといった遠隔地の飲食店にも豆を卸している。

 豆の仕入れにもこだわりがある。LCF(Leading Coffee Family)というグループに参加することで、世界中からハイエンドな生豆を入荷しているのだ。LCFに参加するメリットは、いつくかある。商社を経由した仕入れよりも、幅広い産地からの入荷が期待できること。栽培の段階から農園とパートナーシップを結んでいるため、独占契約できること。信頼の置ける農家から仕入れているため、年ごとの味のブレが抑えられること。少量購入だと仕入れ値が高くなってしまうが、同じ志を持った仲間と共同購入することで、価格を下げられること。LCFは数百種類に及ぶ豆を集めているが、加盟店によって売れ筋が異なるため希望する豆が被ることはあまりなく、取り合いになる危険性が低いこと。……などなどいいことずくめなのだそうだ。

 LCFには全国85店のビーンズショップをはじめ海外の店舗も参加しているそうだが、中心となっているのがこの世界で名を知られた「堀口珈琲」である。中根さんは開業する準備の段階で、「堀口珈琲」主催のセミナーに通っていたそうだ。どうりで旨い訳だ。

 その頃の中根さんはスタジオミュージシャンとしてドラムを叩きつつ、副業として商社で貿易関係の書類をつくっていた。音楽家としてのキャリアは長く、大学在学中からはじめた音楽活動は2009年まで20年近くにも及んだ。

 その後2011年の6月に「クラウド・ナイン」を開店させた。そもそも中根さんがコーヒー屋をやりたいと考え出したのは20年以上前のことで、当初考えていたのは焙煎屋ではなくカフェだった。その頃勢いがあったのは、渋谷の「アプレミディ」に代表されるようなデザイナーズ・カフェ。研究のために全国を回り、910店ものカフェを視察したという。中根さんの希望は「隣の会話が気にならない」「すわり心地が良い」「コーヒーが美味しい」という3つの要素をすべて満たした店だった。すこしだけ業態が変わってしまったが、くつろぎの空間でじっくり珈琲が楽しめるという理想は充分実現されていると感じた。

 中根さんは、消費者にもっと良いコーヒーを見分ける目を養ってもらおうと定期的にセミナーを開催している。豆の流通、栽培、精製、品種の違いからおいしい淹れ方、産地ごとの飲み比べまで講義の内容はかなり幅広い。コーヒーにうるさい男性にとって、見過ごすことが出来ない店である。

店舗名 クラウド・ナイン
店主 中根大志(なかね ひろし)さん
住所 東京都世田谷区奥沢6-28-4 ワイズニール自由が丘1F

※2018年現在、店名が変わったようです。所在地に変更はありません。

ebonycoffee.tokyo