メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

コロナのこの時期に、札幌でのライター・イン・レジデンスを振り返ってみた

 

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ども。檀原(@yanvalou)です。

ちょうど4年前の今頃、札幌でライター・イン・レジデンス(執筆逗留)していました。
正確に記述すると、時期は2016年10月4日〜22日で、滞在先は「さっぽろ天神山アートスタジオ」です。

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ライター・イン・レジデンスについては以前も尾道や台湾の話を書いていますので、詳細は省きます。一言で言うと、かつての文豪が温泉宿に籠ったように、自分の生活圏から離れた土地で暮らしながら集中して創作活動させてもらう制度です。「暮らすように旅をする」の延長だと考える事も出来ます。

 

www.yanvalou.yokohama

www.yanvalou.yokohama

 

詳しくお知りになりたい方はこちらのスライドでご確認下さい。


ライター・イン・レジデンスとはなにか from Tell-Kaz Dambala

コロナでリモートワークやワーケーションがさかんに試される昨今。レジデンスに思いを馳せることは、平時とはまったく異なる感慨があります。

なかなか理解してもらえなかったレジデンス制度ですが、いまならどうでしょうか?

 

日本初のライターも利用できる常設レジデンス施設

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札幌のこの施設は、日本人文筆家も利用できる国内初の常設レジデンス施設です。オープンしたのは2014年の春でした。

日本ではレジデンス制度はアーチストの専売特許になっていて、商業作家やライターはほとんど利用していません。
というより、いままでは文筆家は対象外で利用できなかったのです。
しかし時代は変わりました。書き下ろしの単行本を書かねばならないときなど、集中して仕事をしたいときには重宝すると思います。

僕が仕事場としてレジデンス施設をお薦めする理由。

それはあり得ないほど宿泊費が安いことです。
ある程度長期になれば、確か1泊千円しないんじゃなかったかな?

そんなバカみたいに安い料金で、お籠もりしながら集中できるので仕事が捗ります。
家にいると誘惑が多くて筆が進みませんものね。

さて、なぜこんなに安いのかといえば、レジデンス施設がアーチストやクリエイターへの助成機関と位置づけられているからです。

あまり知られていないのですが、能や歌舞伎、文楽、クラッシックのオーケストラ、バレエなどは助成金がないと赤字になってしまい、公演が打てません。また稽古代や制作費を捻出することもできないため、助成は欠かせないのです。

そういう訳で舞台芸術の世界では助成を受けるのは当たり前。これはアートの世界も同様です。さらに日本以外の国では文筆家も助成を受けられるのです。

日本では助成を受けると「表現の自由」や「報道の自由」が犯される、と思い込んでいる方が多いせいか、経済的な困難を抱えたまま頑張りつづけることが奨励されているようです。

それこそバカみたいだと思うのですが、いかがでしょうか?

 

どうすれば利用できるのか

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僕が利用していた部屋です。散らかっているのはご愛敬

さて、天神山スタジオの利用対象者は以下のようになっています。

  • 文化芸術活動を行う方
  • 作品の制作やそれに関わる調査等を行うことを目的とする方
  • 滞在スタジオで活動することが適当と認められる方

天神山アートスタジオは審査がゆるいので、おそらくブロガーでも大丈夫だと思います。
 
そんな天神山スタジオの利用申請はこちら。(←失礼!リンク切れになってました)
申請書に加え、以下の資料を提出が必要になります。

  • ポートフォリオ(もしくは下記の内容を含むWEBサイトのURL)
  • プロフィール、活動歴、作品画像を数点など活動内容の分かるもの
  • 身分証明証(パスポート、運転免許証、健康保険証など現住所が記載された書類)のコピー1部

 

tenjinyamastudio.jp

 

滞在を振り返ってみた

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この記事のトップの写真は定例の夕食会の様子です。
参加者の交流を図るため、曜日を決めて親睦を深め合いました。
と言ってもここは自炊が基本なので、キッチンなどで毎日のように誰かしらと顔を合わせますけどね。

ひじょうに楽しかったのですが、4年も前のことなので細かい部分を覚えていません。

滞在中に Facebookに投稿した記事を転載して、当時を振り返ろうと思います。

2016/10/04 1:13

明日から22日まで札幌です。天神山アートスタジオでショートレジデンスします。 じつは浦河に2ヶ月行ったその同じ年の春に、文筆家もOKなレジデンス施設が、あろうことか北海道内にオープンしていたんですね。 「あの苦労はいったい何だったの?」 ...

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月3日月曜日

2016/10/05 13:38

札幌は空気の乾燥っぷりがすごい。 浦河に行ったときは一応加湿器を持っていったのだが、スイッチを入れることさえなかった。むかわにいたときは雨ばかり降っていたし田んぼのど真ん中の家だったので乾燥とは無縁。平取のときは森の中だったのでやはり乾き知らずだった。 とりあえずバスタブにお湯を張りっぱなしにして乾燥対策している。

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月4日火曜日

 2016年10月5日 21:15

「2ヶ月弱レジデンス中です」という若い台湾女子アーチスト2人組と夕食を食べながらお話。 やっと本来のレジデンスらしくなってきた。 最近までオーストラリア人のライターもいたとのこと。 まだ顔合わせしていないが、名前を聞いたことのない劇団もレジ...

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月5日水曜日

2016/10/09 16:53

さきほどレジデンス施設のロビーで、取手で知り合ったアーチストのFさんとばったり。 札幌に越していたのは知っていたけれど、こんな所で出会うとはつくづく世界は狭い。 狭いと言えば、現在レジデンス中の台湾女子の片割れは、先日僕が2泊した「ファベーラホテル」の立ち上げ時のスタッフだったそうだ。 アート業界は狭いので、こういうことはしょっちゅうあるんだろう。 僕も少しだけ、この世界に馴染んできたのかも知れない。

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月9日日曜日

 この「Fさん」というのは深澤孝史さんというアーチストで、このスタジオの近くに住んでいるそうです。

また「ファベーラホテル」というのは、台湾のレジデンス施設「トレジャーヒル」のことです。ブラジルの貧民街「ファベーラ」に似ているので、勝手にそう呼んでいました。

 

2016/10/10 18:26

オーストラリア人の小説家と立ち話。 「森の奥で行われたアイヌのイベント、一番近くのコンビニが35キロ先で…」 「オーストラリアの田舎に行くと、いちばん近い町が3百キロ先なんてことがあるよ」

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月10日月曜日

2016/10/11 5:11

これ、すごい。宿泊費はアーチストの一芸。新手のairbnb。 A new type of Airbnb for artists. Residents donates an artwork to the host. ▽ Happening | The art world's latest start up, an Airbnb for artists

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月10日月曜日

2016/10/11 14:54

レジデンス施設のすぐそばにロープで囲んだ一角があり意味不明だったのだが、地元の方の説明でアイヌのチャシ(砦)の跡だということが判明。 予算がないのですぐにどうこうは出来ないが、将来発掘する予定なのだという。 正直な話、施設と施設の周辺の...

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月10日月曜日

2016/10/14 1:06

宿泊中のこの施設、知り合いが何人も来ているな、と思っていたところ、22時半頃ノックの音が。 旧知の舞踊批評家・志賀 信夫 (Nobuo Shiga) さんだった。 まさかレジデンス中に知人がやって来るとは。 行動範囲が拡がったはずなのに、なぜか世界は狭くなる一方だ。

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月13日木曜日

これは本当にびっくりしました。
首都圏在住の人間がふたり、偶然札幌で同じ場所に宿泊していたなんてミラクルです。

 

2016/10/14 23:55

 進藤冬華の個展「押入れの中」のオープニングパーティーに行ってきた。昨年の黄金町バザールで、作品がポスターに選ばれたアーチストだ。よりによって僕の滞在中に黄金町ゆかりの人間が個展を開くとは。もうこれは引き寄せの法則が働いているとしか思えない...

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月14日金曜日

2016/10/15 23:35

「ベルリンに15年住んでいた」という人とおしゃべりしながら晩ご飯。 せっかく北海道まで来たのにまったく出歩いておらず、今いる場所から半径2、3キロの距離を散歩してるだけ。賑やかなところには昨夜初めて行った、という状況。 にもかかわらず、なんかいろいろ勉強になってる。

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月15日土曜日

この方は島袋道浩さんという著名なアーチストですが、全然知らなくて普通に話してしまいました。2011年の横浜トリエンナーレ参加作家でもあり、そのときの作品は見ていましたが、そんな方に対してなんとまぁ。こういう交流がレジデンスの面白いところでもあります。

2016/10/16 13:26

さきほど月例朝食会のあと、地元の方から聞いた話 ▼ 宿泊料代わりに働いた疑い 外国人観光客2人逮捕 札幌:朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/ASJBC5W6YJBCIIPE02G.html 有名ゲ...

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月15日土曜日

2016/10/16 14:23

昨晩お話しさせてもらった島袋道浩さんの過去作品をネット検索してて思ったんだけど、去年参加した「みちのくアート巡礼キャンプ」の作品、「檀原という名前の土地巡り」にすれば良かったんじゃないだろうか。 東北には「檀原」という名前の土地がいくつか...

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月15日土曜日

2016/10/18 16:10

モエレ沼

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月18日火曜日

2016/10/18 21:46

今日から新しい人が2名。 二人とも小説家。 いろいろ教えてもらおう。 ここにいるだけで、かなり情報通になれるなぁ。

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月18日火曜日

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正確にはこの日、イギリスから三人の方が来幌。ゲイの小説家、そしてアーチストと小説家のカップル。

ゲイの作家は中国人の旦那さんがいて中国人の養子を育てているとのことでした。ただ事情があってその子を中国にいる祖父の元に預けているそうで、今回のレジデンスはその子の顔を見るため中国に来たついでに日本まで足を伸ばしに来たとのこと。

パートナーのことを"My Husband"と呼んでいたことが、個人的には衝撃的でした。

彼との会話の中で台湾・アメリカ合作映画「ウェディング・バンケット」(アン・リー監督 1993年 )の話題が出たのが印象に残っています。

あらすじは以下の通り。

台湾人青年ウェイトンは、マンハッタンで恋人のアメリカ人・サイモンと暮らしている。しかし、ウェイトンは台湾に暮らす両親に、自分がゲイであることを告げられずにいた。そんなことを知らない両親は、ウェイトンに早く結婚するよう催促を繰り返す。一方、ウェイトンの友人で芸術家のウェイウェイは、お金がなく、アメリカ滞在のためのビザの期限も切れようとしていた。
そこで、ウェイトンとウェイウェイは偽装結婚することで、ウェイトンは両親を安心させ、ウェイウェイはグリーンカード(永久居住権)を得ようとする。結婚式は役所で書類を提出する程度で済ませるつもりの二人だったが、ウェイトンの両親が渡米してきて、どうしても台湾式の賑やかな結婚式をするように迫るのだった。

てっきり欧州では作家のレジデンスが盛んだと思っていたのですが、彼は今回が人生初のレジデンスだとのこと。イギリスにはレジデンスの施設自体はたくさんあるものの、実績のある人が集中的に使うので順番が回ってこないようです。この点に関しては最後のfb投稿でも触れています。

2016/10/20 3:08

札幌在住の漫画家、瀧波ユカリさんに会って来ました。「子供を寝かさないといけないので」とのことで、約束の時間が22時。今までで最も遅い時間に始まったインタビューです。 いま僕が泊まってるレジデンス施設は知名度が低く、普通の札幌市民は知らない...

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月19日水曜日

たしかこの辺りのタイミングで、「きかんしゃトーマス」や「アンパンマン」の玩具をデザインしていたというデザイナーの方が1泊しました。
スケッチブックを見せながら、過去の仕事の話を語って頂きました。

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2016/10/20 22:44

単行本一冊書き下ろし完了。 本を一冊まるまる書くって何年もやってないんで、出来なかったらどうしようと思ってた(w マジな話、カンヅメにならなかったら書き上がらなかったと思う。 どうして昔は出来たのか、すごく不思議だ。

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月20日木曜日

2016/10/21 23:41

本日が札幌のラストナイトです。 行きたいところがいろいろあったんだけど、全く行けなかった! 北広島の田園地帯と藻岩山トレッキングと豊平峡温泉は行っときたかったなぁ。 来年リベンジしたいと思います。 今度来るときは、もう少し英語が上達していますように。

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月21日金曜日

2016/10/22 0:03

あっそうだ。 さっき聞いたことをメモしておかないと。 「アートと文学は別のもの」というのが日本の文化シーンの問題の一つだと思っていたのだが、イギリスも同じ問題を抱えている模様。 アメリカのような手厚い文学への援助はないようだ。 当然レジデン...

Tell-Kaz Dambalaさんの投稿 2016年10月21日金曜日

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 fbの投稿の中には出て来ませんでしたが、「ふらの塾」出身の役者さんや中国人のアーチストと話をしたのも良い思い出です。
また天神山スタジオのスタッフが関わっているイベントにも顔を出させて頂くなど、なかなか充実した日程でした。

このときはブックライティングの仕事を仕上げるために滞在したのですが、仕事が忙しく観光的なことはまったく出来ず。気分転換を兼ねて40〜50分かけてススキノまで歩いたり、1度だけの遠出でモエレ沼を訪ねたりするのがせいぜいでした。

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スタジオのある天神山は丘全体が公園になっています。ご覧の通り、緑豊かな環境の良いところです。

北海道には「里山」という概念がないそうなのですが、天神山は例外的な存在。おそらく北海道内で唯一の里山だった場所です。現在は開発がすすんで公園の周囲はふつうの住宅地なのですが、土地の人にはまだここが里山だった頃の記憶があるらしく、その頃はこの山のてっぺんで羊を料理して食べるのが習わしだったとのこと。

実際、この土地はクラーク博士の銅像で有名な「羊ヶ丘」からそれほど遠くありません。きっとほんとうにここは羊を食べる場所だったのだと思います。

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まだ10月中旬だというのに雪が積もったのでびっくりしました。

さすが北海道!

 

駆け足で振り返りましたが、いかがだったでしょうか?

ワーケーションに、はたまた「精神と時の部屋(by ドラゴンボールとして、利用する価値のある施設だと思います。

また日常の業務では、絶対に出会うことのないクリエイターと交流できるのも魅力です。

日本で暮らす私たちが海外の作家と交流する機会は、絶無と言って良いでしょう。オンラインだったらまだしも、リアルではほぼあり得ません。しかしレジデンスすれば、チャンスはいくらでも転がっています。

ライターの皆様は1度試してみてはいかがでしょうか?

今日の記事は以上です。
またのお越しを、お待ちしております!