メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

暮らしは続く。長くのんびりと。そんなお店のお話

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雑貨店「SLOW」 高松しのぶさん

2015年7月15日に取材した谷中の雑貨店「SLOW」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
「未公開取材記事」カテゴリーは残り少なくなり、この原稿は手元に残ったメモを元に新規で記事を書き起こしました。取材元の確認は取っていないことをご了承下さい。
内容は取材当時のものです。

「古道具と手仕事の店です」
 店頭にこんな張り紙があった。谷中5丁目の「SLOW」は、今日も控えめな佇まいをみせる。
 白を基調とした店内には、ほとんど色がない。陳列された商品は生成や無垢材など、塗りも飾りもない素朴な風合いの物ばかりだ。アロマディフューザーがせわしない日常空間を遠ざける。店内の什器は背の低いもので統一されている。なんとなく無印商品を連想した。
「無印はずっと好きで、でも商売としては天敵ですね。手強いです」と店主の高松しのぶさんは語る。
 現在商品を扱っている作家は20名ほど。最初期の作家は

  • ワイヤークラフト 奥田由味子
  • 陶芸 菅谷太良(たかよし)
  • 裂き織り ALPOKKO

の3名で、いまや定番となった商品が店頭に並べられている。
「ALPOKKOさんや奥田さんと取引しているのは、都内ではウチだけです。とくにALPOKKOさんの鍋つかみは、当店だけのオリジナルなんです」
 作家たちとの付き合いが増える反面、古道具のスペースは徐々に減る傾向にある。とはいうものの、新しい物も民芸品のようにオーソドックスな物が中心だ。それは古くからある店も新しくできた店もほどよい調和を見せる谷中の町並みを思わせる。
 長い時間を経てきた谷中の町並みには、一朝一夕では積み上げられない味わいがある。「SLOW」に姿をみせる客たちは、昭和にタイムスリップしたかのような小さな店をハシゴしながらやってくる。
「お客さまの一般的なルートはJR日暮里駅の問屋さんや荒物屋(駕籠、ザル、箒、鞄などを扱う)の『松野屋』さんの帰りによってくださることが多いです。
 通なお客さまは、うちを覗いた後、アンティーク/セレクトショップの)『クラシコ』や古民家の複合施設『HAGISO』に足を延ばすようですね。欧州雑貨の『ビスケット』に行かれる方もいます」

matsunoya.jp

classico-life.jugem.jp

hagiso.jp

biscuit.co.jp


 客の多くは、あらかじめ欲しいものや買い物の目的がはっきりしている人たちばかりだ。それは日本人だけではない。外国人にも人気の谷中だから、2009年の開店当初から「SLOW」は外国人客が引きを切らなかった。ここ1、2年はとくに増えている。最初の頃はフランス人中心だったのが、いまやかなりの多国籍だ。そんな彼らも日本人客と同じにおいがするという。国籍を越えて、類は友を呼ぶのだろう。
「人出が多いのは、お彼岸です。近くにお寺があるので、お墓参りの帰りに寄ってくださるお客さまがいます。それからなんと言っても『芸工展』が行われるゴールデンウイークや10月ですね」
芸工展」というのは谷中や上野一帯で町をあげて行われる恒例行事だ。参加者は誘われるように路地から路地へ迷い込み、普段なら見過ごしてしまいそうな風景を愛でながら、そこかしこで展示即売される手作り品やアート作品などに出会っていく。
 しかし普段の客層は、平日は観光客と地元民が半々。週末は観光客7割と、必ずしも観光客頼みという訳ではない。
「ご近所から『饅頭あるから食べるか?』と訊かれたり、ご近所との交流もあります。とは言え、雑貨店同士のつきあいは特別あるわけではなくて、雑貨店巡りしているお客さまの方が詳しいかもしれません。でも女1人でやっている店同士のつながりはあるかな」
 オープンから6年経ったが、店のある谷中三崎坂界隈は下町の折り目正しさを保っている。条例があるので大型マンションが建つこともないし、お寺があるので落ち着いた風情もある。
「SLOW」の内部を満たす静謐な空間もゆらぎがない。修道院の台所にいるような、丁寧な気持ちにさせてくれる。厳選された商品に囲まれていると、つい長居したくなってしまうのだった。

SLOW
代表:高松しのぶ(たかまつ しのぶ)
住所:東京都台東区谷中5-4-12

www.slow-yanaka.com