檀原(@yanvalou)です。
2009年のことになりますが、嘉悦大学経営経済学部教授(当時)の桧森隆一さんが講師を務める「プロデューサー講座」という半年間のコースを受講していたことがあります。
桧森さんはヤマハに35年間勤めた後、大学教員に転身された方なのですが、ヤマハ時代の仕事はコンサートの制作だったそうです。
ヤマハという企業は楽器をつくっています。
その楽器の売上を伸ばすためには音楽文化を育てなければなりません。必然的に、コンサートの企画や運営もさかんに行っていたそうで桧森さん自身、毎年ものすごい数のコンサートを企画していたそうです。
桧森さんの話でとくに印象に残っているのは、「プロとアマチュアのちがいはどこにあるのか?」というものです。
プロとアマチュアのちがいは?
日本国内にはモーツァルトを専門に演奏するアマチュア・オーケストラがいくつかあるようですが、桧森さんが話していたのはおそらく1972年に設立されたモーツァルト室内管弦楽団のことでしょう。
このオーケストラですが、並のプロよりもあきらかに演奏レベルが高いのだとか。
つまりアマチュアとプロの差は「演奏が上手いかどうかではない」というのです。
しかも「プロより上手なアマチュアは珍しくない。アマチュアより下手なプロもたくさん見てきた」と桧森さんは言います。
ではどこに差があるのか。
桧森さんは言います。
- プロは自分の芸は曲げないが、主催者の意図には出来るだけ答えようとする
- アマチュアは自分のいやなことはやらない。柔軟な対応ができず、応用が利かない
したがってコンサートを制作する場合、プロより上手いアマチュアがいるにも関わらず敢えてプロに頼む理由は、その方が制作が滞りなく進むからだそうです。
プロであれば主催者の意図を汲んで、できる限りの努力をしてくれる。
一方アマチュアは自己実現のためにやっているので、自分の意に沿わないことはやろうとしない。
ここまで読んだあなたは、なぜアマチュアよりも演奏レベルが劣るプロが存在するのか、理解できたのではないでしょうか?
モーツァルト室内管弦楽団が上手いのは、一年中モーツァルトしか演奏しないからです。
一方プロとして生活を維持していこうとしたら、レパートリーの幅を拡げなければなりません。なぜなら主催者や観客の要望に応えなければ、仕事が途絶えてしまうからです。
当然、自分が好きな曲ばかり演奏するわけにはいきません。
プロは幅広いレパートリーを維持・習得しなければなりませんから、モーツァルト(に限らず特定の楽曲)に振り分ける時間はどうしても短くなります。
逆にモーツァルト室内管弦楽団は自分たちの好きなモーツァルトしか演奏しません。
したがってモーツァルトの曲にかける練習量が、プロを圧倒しているのです。
ですからアマチュアの方がプロよりも上手いという逆転現象が起こるのです。
この話、ライター業をふくむ職業一般に当てはまるのではないでしょうか。
この職業で生計を立てているからプロ、というのは幻想
しばしば見受けられる考え方に「これでメシを喰っているからプロだ」というものがあります。
これ、間違っています。
よく考えて下さい。
分かりやすい例としてプロボクサーを思い浮かべて下さい。
4回戦のプロボクサーのファイトマネーですが、聞いた話によると手取りで2万円台前半だそうです。
数ヶ月トレーニングしてそれだけしか稼げないわけです。
当然生計は立てられません。
では、彼らはプロではないのでしょうか?
そんなことありませんよね。
なぜなら彼らはプロボクサーのライセンスを持っているからです。
プロテストの倍率がどの程度なのかは具体的には知りませんが、決して高くないはずです。
その関門を突破したのですから、アマチュアの筈がありません。
つまり「その技能や職業で生計を立てているからプロ」というのは、幻想にすぎません。
そうではなく「自分の仕事でお客様を喜ばせたい」と考えるのがプロです。
自己実現とプロフェッショナリズムは、直接関係ありません。
だから趣味が存在するのではないでしょうか。
項を改めて、「ジョブ」と「ワーク」のちがいについて話を続けたいと思います。