メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

「冷めて冷たくなっても美味しいのが、いいコーヒー」というカフェの話

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Café de Variété 増田佳彦さん

2015年5月15日に取材した東京都杉並区の「Café de Variété(カフェ・ド・ヴァリエテ)」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
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 映像関係の仕事をしていた増田佳彦さんが漠然と自分の店を持ちたいと考えるようになったのは、30代の頃からだった。贔屓にしていた店が特にあったわけではないが、美味しいワインとコーヒーを出す、生演奏のカフェレストランをやりたいと思っていたそうだ。

 コーヒーの勉強はもともとしていたのだが、2010年に体を壊して入院。会社をやめてしまった。その後も病院通いは続けなければならず、「今後どうしよう」と思案したとき、改めて店を持ちたいと思ったのだった。

 そこでコーヒーの勉強をしなおしたのだが、コーヒーにどっぷりハマり、カフェレストランではなく自家焙煎のカフェを出店することになったという。

 増田さんのこだわりはスペシャルティコーヒーだけを使い、ハンドドリップで淹れること。「スペシャルティコーヒー」とは、米国ではSCAA(米国スペシャルティコーヒー協会)の鑑定で80点以上の高級コーヒー豆を指す。日本では定義が曖昧なので「カフェ・ド・ヴァリエテ」では敢えて「スペシャルティコーヒー」という言い方はしていないものの、世界の生豆の上位5パーセントという「スペシャルティコーヒー」に相当する良質の豆だけを選んでいるそうだ。

 こちらのお店ではストレートとブレンドの二つの系統のコーヒーを用意している。

 シングル・オリジンで人気があるのは、浅煎りで提供するフルーツジュースのような酸味をもった豆。具体的にはブラジルの「カフェ・ヴィーニョ」やエチオピアの「イルガチェフェ・チェレレクト」だ。

「酸味」というと、ネガティブな反応が返ってくることが少なくないが、一口に酸味といっても奥が深い。オレンジやレモン、グレープフルーツといった柑橘系の酸味のほか、熟したネクター系やアプリコット系の酸味、ワインやマスカットのようなブドウ系の酸味など、幅があるそうだ。  

「酸っぱくないから酸味がない、と仰る方がいますが、上質なコーヒーは酸味を含んでいても酸っぱくないし苦味も少ないんですよ。外資系チェーン店の浅煎りコーヒーにはかなり酸っぱいものもありますが、あれを美味しいというのは違うと思いますね」と増田さん。

 論より証拠、ということで「イルガチェフェ・チェレレクト」を淹れていただいた。これはエチオピアのコーヒー産地イルガチェフェ村のチェレレクトという地区の豆で、モカ・シダモの最高級品だという。豆を挽く前の状態ですでにフルーティーな芳香を湛えている。これをあらびきにしてじっくり抽出する。

 抽出は「コーノ式」といわれる方法で、点滴のようにちょっとずつちょっとずつ、お湯を垂らすように注いでいく。これはいわゆる「蒸らし」に相当する工程で、3分の1杯をすぎたらようやく湯を線にして落とす。ひじょうに手間と集中を要する淹れ方だ。

 口に含むと、口腔の奥に抜けるような味覚と舌先に拡がるあっさりした味わいがじんわりハーモニーを奏でるという、複雑な体験に「ほうっ」となった。さらに後味の残留時間もながく……これはもう、ワインを鑑定しているような気分だ。

 シングル・オリジン(単一の産地・農園・品種からなる混じりけのない豆)のコーヒーは砂糖やミルクをいれないで飲むことを「カフェ・ド・ヴァリエテ」では推奨している。的確な焙煎を施し、豆にあった抽出を経たコーヒーは「赤ワインのコク」「ナッツのような香り」など、明確な個性の違いがある。しかし砂糖やミルクを加えると、香りや味のキャラクターが楽しめなくなってしまうという。

「カフェ・ド・ヴァリエテ」で提供しているブレンド・コーヒーは3種類である。基本となるのは中深煎りの「ヴァリエテ・ブレンド」のハンドドリップ。とはいえ、お客様の要望に応じてサイフォンで淹れてさっぱり仕上げるなど、個々人の好みに応じた対応をするそうだ。

 大通りから1本裏に入ったところに位置するこの店は、阿佐ヶ谷駅北口に住む常連客に支えられている。車椅子の高齢者やベビーカーを押す保護者も来店するため、エントランスはバリアフリー。居心地の良さを追求し、座席には長時間座っても疲れない椅子を揃えているという。座面は42センチと低めなので、年配者もきちんと足をつけてくつろぐことが可能だ。

「ハウツー本には椅子は固めにして回転率を上げろ、と書いてありますが、とんでもないと思いますね」

 カフェといえばスイーツを楽しみにしているお客様も多い。「カフェ・ド・ヴァリエテ」はスイーツにも抜かりない。増田さんは代官山のフランス菓子店「イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ」の教室でケーキの作り方を学んだそうだ。今は奥様がスイーツ担当だそうだが、ガトーショコラはほぼ教室で学んだレシピを踏襲しているという。

www.ilpleut.co.jp

 生演奏のカフェレストランをやりたい、という当初の夢は、ときおり行われる店内の演奏会という形で実現した。テイスティングセミナーやドリップ教室、紅茶の教室など月1回のペースでイベントも行っている。いずれの企画もコーヒーの味に自信があるからこそ成り立つ話だ。

「冷めて冷たくなっても美味しいのが、いいコーヒー。うちのは冷めても美味しく飲めますよ」

「カフェ・ド・ヴァリエテ」は、コーヒー好きにも安心してオススメできる貴重な店といえるだろう。

Café de Variété(カフェ・ド・ヴァリエテ)
店主・増田佳彦(ますだよしひこ)
東京都杉並区阿佐谷北1-42-14 相良ビル1F
http://www.cafe-de-variete.com/

2017年5月23日、タイトルを変更しました。