メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

白と茶色の鎮静空間でコーヒーを楽しむには

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Photo : Noémie D. www.flickr.com

コーヒーロースター クラウドナイン 中根大志さん

2015年5月18日に取材した東京・世田谷区のコーヒー店クラウド・ナイン」(当時)の紹介文です。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
記事の内容は取材時のものです。

「周囲が気にならない『個室のような空間』でコーヒーを楽しんでいただきたい」。

ゆったり配置した座席と存在感のある焙煎機。ほどよい照明。ゆるめのソウル・ミュージック。白と茶色の2色でまとめられた鎮静空間。「クラウド・ナイン」は全席ソファーの落ち着いたお店である。さぞかし気を使ってカフェ経営をしているのだろう……という印象を持ったのだが、

「じつはうちはビーンズショップなんです。豆の売上が7割以上。席はシートいうより、試飲スペースというイメージですね」

とオーナーの中根大志さんは語る。

おしゃれなカフェに見えた同店だが、じつはコーヒーロースターなのだった。

近年コーヒーの世界でトレンドとなっているのが、「サードウェーブ」と呼ばれる浅煎りの「シングル・オリジン」豆を抽出する方向である。「シングル・オリジン」とは単一の農園で収穫した同一種の苗木から収穫した豆のこと。これまでコーヒーの世界にはワインのように産地ごとに味覚のちがいを楽しむという文化がなかった。そのちがいを楽しむのが「サードウェーブ」の特徴なのだ。抽出にも特徴があり、ハンドドリップが重視されている。

ところが「クラウド・ナイン」は「サードウェイブ」とは少し違うのだそうだ。もちろん浅煎りのシングルオリジンも扱ってはいるものの、そこに囚われてはいない。もっとも特徴的なのは、ブレンドづくりに力をいれていることだ。中根さんは「良いブレンドを作りたいから、良いシングルオリジンを入手するように心掛けています」と語る。

中根さんが提供しているブレンドは、現在4種類ある。その内訳は定番が3種類と季節ごとに変わるシーズンものが1種類だ。時期によっては、ブレンドが5~6種類に増えることもあるという。

異なる風味をもつ豆をセレクトして自分好みのブレンドを作り出すのは、楽しい作業である。しかし一年を通じて味を安定させるのは、非常に難しいそうだ。コーヒーは農作物である。季節によって味が変化するのだ。変化が特に大きいのは、端境期とよばれる2月から3月にかけて。古い豆から新しい豆に切り替わる時期なので、変化も大きいという。中根さんは毎朝夫婦でコーヒーを試飲し、味に変化がないか話し合いをする。そして必要があれば、基準になる味を維持するために配合を変える。配合調整の頻度は年6回以上にもなるという。

こうして手間をかけた「クラウド・ナイン」のブレンドは高い評価を勝ち得ており、都内のみならず長崎や大阪などといった遠隔地の飲食店にも豆を卸している。

豆の仕入れにもこだわりがある。LCF(Leading Coffee Family)というグループに参加することで、世界中からハイエンドな生豆を入荷しているのだ。LCFに参加するメリットは、いつくかある。商社を経由した仕入れよりも、幅広い産地からの入荷が期待できること。栽培の段階から農園とパートナーシップを結んでいるため、独占契約できること。信頼の置ける農家から仕入れているため、年ごとの味のブレが抑えられること。少量購入だと仕入れ値が高くなってしまうが、同じ志を持った仲間と共同購入することで、価格を下げられること。LCFは数百種類に及ぶ豆を集めているが、加盟店によって売れ筋が異なるため希望する豆が被ることはあまりなく、取り合いになる危険性が低いこと。……などなどいいことずくめなのだそうだ。

LCFには全国85店のビーンズショップをはじめ海外の店舗も参加しているそうだが、中心となっているのがこの世界で名を知られた「堀口珈琲」である。中根さんは開業する準備の段階で、「堀口珈琲」主催のセミナーに通っていたそうだ。どうりで旨い訳だ。

その頃の中根さんはスタジオミュージシャンとしてドラムを叩きつつ、副業として商社で貿易関係の書類をつくっていた。音楽家としてのキャリアは長く、大学在学中からはじめた音楽活動は2009年まで20年近くにも及んだ。

その後2011年の6月に「クラウド・ナイン」を開店させた。そもそも中根さんがコーヒー屋をやりたいと考え出したのは20年以上前のことで、当初考えていたのは焙煎屋ではなくカフェだった。その頃勢いがあったのは、渋谷の「アプレミディ」に代表されるようなデザイナーズ・カフェ。研究のために全国を回り、910店ものカフェを視察したという。中根さんの希望は「隣の会話が気にならない」「すわり心地が良い」「コーヒーが美味しい」という3つの要素をすべて満たした店だった。すこしだけ業態が変わってしまったが、くつろぎの空間でじっくり珈琲が楽しめるという理想は充分実現されていると感じた。

中根さんは、消費者にもっと良いコーヒーを見分ける目を養ってもらおうと定期的にセミナーを開催している。豆の流通、栽培、精製、品種の違いからおいしい淹れ方、産地ごとの飲み比べまで講義の内容はかなり幅広い。コーヒーにうるさい男性にとって、見過ごすことが出来ない店である。

店舗名 クラウド・ナイン
店主 中根大志(なかね ひろし)さん
住所 東京都世田谷区奥沢6-28-4 ワイズニール自由が丘1F

※2018年現在、店名が変わったようです。所在地に変更はありません。

ebonycoffee.tokyo