メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

「安心できる居場所づくり」を目指して奮闘するダイニングバーの話

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2015年5月20日に取材した東京・麻布十番のダイニングバー 「クル」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
記事の内容は取材時のものです。

 この世の中には名店と呼ばれる店が星の数ほどもある。経営者や従業員の不断の努力が実を結んでいる部分はもちろんあるだろう。しかし飲食店の場合、店の雰囲気は常連客による所が大きいと思う。感じのよい常連客に恵まれれば店の評判も上がり、居心地も良くなる。店としてもサービスに力が入るというものだ。

 麻布十番の「ヨーロピアンバル クル」は、ドイツ料理を中心にイタリアンなども出してくれる大人のダイニングバーである。店長の高橋功さんによると、「いいものをしっかりつくって、サービスも充実させたい」と考えて神楽坂、広尾など瀟洒(しょうしゃ)な町で物件探しをすすめ、最終的に麻布十番(以下「十番」)に決めたとのこと。開店したのは2013年だが、常連客は地元十番の方が大半で、しかもお客様同士の仲がひじょうに良いという。

「うちのお客様は単独の方が多いんです。そのせいか、この店で知り合って常連さん同士がつながっていくんです。例えば新規のお客様が来られたとします。仮にカウンターが常連さんで埋まっていたとしても『俺たちテーブルで飲むよ』と席を譲ってくださるんですね。でもカウンターにいたお客様たちはみんな単独客なんです」

「クル」の居心地のよさを窺わせるエピソードだ。

 常連客はバラエティに富んでいる。看護士や病院関係者、六本木ヒルズ関連の弁護士、テレビ番組の制作マン、会社経営で成功を収めた紳士など幅広い。ひとつの傾向として言えるのは、前述のとおり、単独客が多いこと。それから来店のピーク時間が遅く、深夜1時、2時に「一軒目」の店として利用するお客様もままみられるということだ。朝まで営業しているせいもあるが、遅い時刻に賑わうのは麻布十番の土地柄だろうか。

 高橋さんの前職はドイツ料理レストランだった。内幸町のドイツ料理店立ち上げの際、料理長をしていたという。最初は和食の板前としてキャリアをスタートし、ロンドンに渡って腕をふるった。その間欧州各国を旅行して見聞を広め、2年間の滞在の後に帰国。厨房でドイツ料理をつくりはじめたのは日本に戻ってからだった。

 世の中は飲食店で溢れている。美味しい料理を出す店も多い。高橋さんは「一定の基準以上の皿を出すのは当たり前。接客に力を入れています」と語る。

 高級店のようなクリエイティブなサービスというより、安心できる居場所づくりという方向で店作りをしているそうだ。そこで、細かいところに気を配った接客とお客様の要望を取り入れた仕入れを実践しているそうだ。「ときには隠しメニューのような形で、メニュー表には載っていないものをご用意することもあります」と高橋さん。本来は料理人だがいまはホールに出たいので、前職で知り合ったシェフに来てもらい、もっぱら表側で店を切り盛りしているという。きめ細かい接客が功を奏したのか、お客様の店内滞在時間は長めだそうだ。

 しかしここまでの道のりは苦労続きだった。

「開店1年目はお客様が来なくて、自分も暗い顔になっていました。常連さんからカウンター越しに『そんな顔をしていたら来る人も来なくなってしまうよ』とハッパをかけていただいたこともありましたね」。

 麻布十番といえば、夏の「十番祭り」である。8月最後の週末に催されるこの祭りは都内で浴衣を着る最後の機会に相当するため、交通渋滞が発生するほどの人出で知られる。開店初年度は立ち回りの仕方が分からず、ビールサーバーを15本借りてきて店の前にブースを作ったものの、知り合いに6杯しか売れずガッカリしたという。表通りは人だかりがしているが、横道には誰も来ないのだ。ところが外売を諦めて店内営業に絞った途端、わずか30分で満席になったという。「次の年から外はやめて早めに店を開けています」。商売のむずかしさと面白さは、こんなところにあるらしい。

 開店から2年が経過した。今はお客様の和が広がり連れ立って野外BBQに出かけるようになるなど、商売が楽しくなってきたところだという。

「まだ理想の半分まで来たところですが。良い料理をお出しして良いサービスをして、うちに来たお客様に元気になって帰っていただきたいですね」

 高橋さんからは「クル」が軌道に乗り始めた手応えと、店がこの地に根を降ろしつつある実感が感じ取れた。

ヨーロピアンバル クル
オーナー:高橋功(たかはし いさお)
東京都港区麻布十番1-2-12レイランドアザブ1F
http://europeanbar-kuru.jimdo.com/