メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

作品作りをする前に入念に話し合う。そんな絵画教室の話

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2015年7月3日に取材した茅ヶ崎の絵画教室「コッテ」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
記事の内容は取材時のものです。

「作品作りをする前にものすごく話し合いをします。自分はなぜこういった表現がしたいのか。楽しく描くためには、よく考えます」

 茅ヶ崎の自宅で絵画教室「コッテ(スウェーデン語で「松ぼっくり」の意)」を主催する後藤てるみ先生は語る。「コッテ」では「自分がやりたいことはなにか」について徹底して考えさせる。受講者は大人の割合の方が多い同教室だが、この方針は大人にも子供にも適用しているという。

 たとえデッサンする場合でも、この姿勢はおろそかにしない。構図や背景を含めた光の設定についてなど、徹底して話し合う。

 ガラス瓶ひとつ描くにしても、描き手のしっくり来る構図・色合いがあるので、自分のルーツを自覚することは大事だ。自分のなかの必然性がはっきり自覚できた方が、いい作品が出来るからだ。制作時間がながいと途中で気が乗らなくなることがあるが、作品と自分の関係が明確になっていればそうした危険性を回避することも出来る。

 この話し合い重視の原体験となっているのは、武蔵野美術大学3年次に体験したスウェーデンでの生活だった。日本ではとにかく手を動かすことを教えられたが、スウェーデンのアートカレッジで目の当たりにしたのは話し合いとプレゼンテーションを重視した美術教育だった。「コッテ」で先生が教えているのは、まさしく欧州流の教育なのである。

 講師が生徒のことを分かっていないと間違った指導をしてしまい「こんなはずじゃなかった」という悲劇に陥りかねない。だからピンポイントで的確な指導できるように、講師である私もあなたのことを知りたい。それが後藤先生のポリシーだ。

 出口が違えば、教える方向も変わってくる。

 ときどき「絵を描く力を仕事に活かしたい」という受講者がいる。しかし出口をアートに置くのか、それとも商業デザインを目指すのかによって、デッサンひとつとっても大きく違ってくる。アート指向の場合は「1枚の作品にする」ことに重点を置く。背景が暗闇だったり、ハイライト気味だったり、点描画で仕上げたりする。一方商業デザイン指向の場合は、背景は余白として空けさせ、とにかく見た物を見たままに、リアルに描写することをベースに指導する。

 ちなみに「コッテ」ではデッサンは美大受験と同じB3の画用紙に描くことが多い。受験のときの制限時間は6時間だが、コッテでは約8時間。しっかり時間を決めて、効率よく取り組む。

「最初に『すごく訓練された人で6時間の作業です』と説明します。終わらなかったら1時間ずつ延長して納得するまでやってもらっています」。

 話を聞いているだけで、教室の凛とした空気が伝わってくるかのようだ。

 話し合いと並んで後藤先生がこだわっているのが、「いろいろな作品を知ること」である。

「一口に『良い作品』と言われても具体的にイメージできないことが少なくないので、画集を見せながら授業をしています。画集はたくさん置いていますので、参考にしてもらっていますね。国内で開催されている展覧会のチラシも教室の壁に貼っています」。

 チラシは目玉になっている作品がセンスよく紹介されていることが多いので、見ていると勉強になるのだとか。併せて美術館へのツアーもミュージアムと連携して行っているという。

 さて作品を制作する動機や必然性を生徒に考えさせることを旨とする後藤先生だが、自身が絵画教室を運営する動機はなんだろうか。

 先生の根っこにあるのは「教室でもお店でも形にはこだわらないが、社会と繋がっていて、自分でトータルコーディネートできる空間が欲しい」という気持ちだという。アートスクールではなく、レストランやベーカリーの経営を志した時期もあるそうだが、最終的に武蔵野美術大学の油絵学科卒業で学芸員の資格保持者という経歴を活かして、絵画教室を始めたのだという。

美大時代は純粋な表現欲求を念頭に『美術とは何か』『アートとは何か』がテーマでした。当時の日本のアートシーンや、美術大学の授業形態自体に遅れを感じ、学生を集めて自分でアーティストトークや現代美術会議を開いたり、都内の主要なアートギャラリーを廻るツアーを開催していました。それと並行して、捨てられた板に吐き出すように思いっきり描いたり、パフォーマンス、映像、写真などあらゆるメディア(媒体)をつかって、『新しさ』を追求してつくりまくってました」

 しかし現在の後藤先生は、自分がアーティストになることばかり考えて生きていくことには価値を見出していない。教えることをベースとしながら、ゆくゆくはアートスポットとして「コッテ」から情報を発信していくことを考えているそうだ。

 後藤先生は、アーティストとして表現をつづけることと教室を運営することは、同じ地平線上にあるものだ、と語る。海の町、茅ヶ崎のアート拠点。茅ヶ崎は毎年若い移住者が増加しており、オシャレな雑貨店やカフェも多い。アートに対する需要や関心は潜在的に高そうだ。

 あなたが湘南在住なのだとしたら、後藤先生の活動を間近に見ながら、絵を通して自分への理解を深め自己表現を深化させていくことが、地元に愛着を持つひとつの方法になるかもしれない。

絵画教室コッテ
主催者:後藤てるみ(ごとうてるみ)さん
神奈川県茅ヶ崎市
http://artschoolkotte.tumblr.com/

artschoolkotte.tumblr.com