メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

暇潰しや待ち合わせ場所としても利用される鎌倉のクラフトショップの話

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Photo : ron riggs www.flickr.com
2015年7月3日に取材した鎌倉のレザークラフトと彫金のショップ「Dahliacyan」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
記事の内容は取材時のものです。

 人気観光地・鎌倉の顔とも言える鎌倉の大仏様や長谷寺への道すがら。由比ガ浜大通に「六地蔵」という、その名の通り赤い前掛けと頭巾を被ったお地蔵さんが6体並んでいる辻がある。レザークラフトと彫金の工房兼雑貨店「ダリアシアン」は、そのお地蔵さんの向かい側で営業している。

 ガラスの扉を開けると、3代目看板犬でフレンチブルドッグのポワンが出迎えてくれた。

 水色にペンキ塗りした壁に手縫いの革製かばんがぶら下がる。それを取り囲むゴシック調の額縁、鹿の頭蓋骨。英国アンティーク調のドローワーや棚と、そこに並べられたこぶりな雑貨たち。ソープディッシュ、ソーサー、時計、鈍色の古い鍵、燭台、トランペット、ランプシェード……。部屋の隅に置かれたクラシカルなソファーも、ブリキのバケツも売りものだ。インド製らしき英国調の家具や日本製のコレクターケースも混じっているそうだが、まったく違和感がない。こってりしたヨーロッパ調と素朴なウエスタン調がほどよく入り混じったインテリア。スタイリッシュだ。茶色、黒、水色、えんじ色と色数を抑えて配色しているので空間に落ち着きがある。

「こだわったのは突き当りの壁一面に貼ったウィリアム・モリスの壁紙ですね」と代表の浅井幸代さん。

 この壁が程よいアクセントになっている。

「店を作るのが好きで、『店を作りたいがために店を作った』という感じです。内装やインテリアは好きなようにしていたら自然とまとまりましたね」とパートナーの浅井充志さん。

  店の内装は大工さんに2週間働いてもらった後、同じく2週間かけて自分たちで仕上げたそうで、並んでいる商品のみならず、店そのものも作品だ。浅井さん夫婦の言葉を借りれば「趣味の塊」の空間ということになる。

「いまは壁にかばんがいくつもかかっていますが、最初のうちは店作りが忙しくて商品がなかったんですよ。かばんも数個だけでした」

「ダリアシアン」の歴史は2004年に遡る。ご夫婦の前職はグラフィックデザイナー。別々の会社で働いていたが、結婚して幸代さんが仕事をやめた際、「趣味でやっていた革細工をもっと真剣にやってみよう」と一念発起。初めはデザインフェスタへの出展で満足していたのが、そこで知り合った人たちとファッションショーをやるなど、どんどん作品を世に出す機会が増えていった。やがて充志さんが革細工の彫金部分を担当するように。そうした活動を4年ほどつづけたあと、藤沢に店を構えたのが2004年だったのだ。

 今はなき藤沢の1号店は内装も工事も完全に2人きりで仕上げたのだという。その後鎌倉に出店し、1ヶ月半かけて物件をセルフリノベートした。周囲からは「まだ完成しないの?」と心配されたそうだが、自分たちで手を動かしながら居場所を作っていく感覚が心地よかったのにちがいない。

 ご夫婦のハンドメイドクラフト歴は15年だそうだが、教室に通うようなことはせず、ずっと独学で学んできたという。

「革細工にしても彫金にしても、誰でも作れるんですよ。分かれ道は『続けられるかどうか』ですね」

 ご夫婦のポリシーは同じものを作らないことだという。だから商品を余所に卸すようなことはしない。同じ商品を大量に作ることを嫌っているからだ。売上の大半はオーダーメイドの1点ものである。

「オーダーは北海道や関西など遠いところからもかなり来ますね。開店当初はメールでのオーダーも受けていたのですが、事細かなやり取りに疲れてしまって対面オーダーのみにしました。会って打ち合わせすることでお客様の好みがわかるんです。ディティールに関してお客様自身が決めきれずに、私達にお任せになることが少なくないのですが、お客様の趣味や嗜好が分からないと『こんなはずではなかった』となってしまう可能性があるんですよ。こちらがお客様の趣味を汲み取るためにも、お会いして打ち合わせることにしています」

 逆に常連客の場合は人となりが分かっているため、完全に丸投げの状態でオーダーされることも多いのだという。

「リピーターの方も多いんですよ。普通のお客さんとして入ってきた男性に彼女ができてペアリング作りに来て、やがてこっそりエンゲージリングの注文を出して。それからマリッジリング、子供向けの注文、と人の人生が見えてくるんですよ。カップルが別れても、違う相手を連れてまた来てくれることがあって嬉しくなります」

 長く続けていると変わったオーダーに出会うことが少なくないという。例えば愛猫の遺骨を入れるペンダントの作成、祖母の形見の指輪をリメイクしてその一部分だけを乗せた指輪の製作、左利き用の財布などなど。

 独学で始めた仕事のため、実践が勉強の場だった。「お客さんに育ててもらっています」と2人は声を揃えて語る。技術的な理由を根拠に注文を断ることはほとんどない。注文を受けてからどうやって壁を克服するかを検討する。出来ることを広げていくこと。その繰り返しで技術を向上させてきた。

 インタビューが終盤に差し掛かったころ、ポワンが筆者の股の間をくぐった。かまって欲しいらしい。じつはポワン目当てで入ってくるお客様が結構いるそうで「犬様々」なのだとか。浅井さん夫婦の人当たりの良い接客のせいもあって「ダリアシアン」で暇を潰したり、待ち合わせ場所として活用している常連もいる。

 昔の床屋はご近所さんのたまり場になっていたそうだが、工房であるはずの「ダリアシアン」は不思議な居心地の良さに満たされていた。

 「将来はここをサロン化したいんですよ。観光客が多くて商品が動くのはいいのですが、製作の手が止まるのがジレンマで。オーダー客を1日2組くらい入れる、という形でやれたら。人力車とか変わった乗り物で鎌倉駅までお出迎えする、という妄想も膨らませています」。

「ダリアシアン」の売り物はクラフトだけではない。最大の売り物は、店という入れ物なのだった。

Dahliacyan(ダリアシアン)
オーナー:浅井幸代(あさいゆきよ)
〒248-0014 神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-6-18 1F
http://www.dahliacyan.com