メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

学生起業家から会社を買い取った社長の話

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個人的に興味を惹かれた方に会い、お話を伺うブログ内企画です。

原則として、檀原(@yanvalou)の地元を中心に考えていきます。

出だしの数回はブログにポートフォリオ的な機能を持たせるために、古いインタビュー記事から転載したいと思います。

第2回は「平均2週間でウェブサービスをつぎつぎ開発している」という株式会社オンザボードの和田憲治さんです。

※このインタビュー記事は2012年5月7日に取材した際の情報に基づいており、現在では異なる場合もあります。当時ボランティアで某Web媒体に寄稿した記事をそのまま転載(一部修正あり)しますので、文体が「である体」になります。

株式会社オンザボード代表取締役 和田憲治さん

「神奈川の IT ベンチャー」というと、その方面に詳しい人たちが思い浮かべるのは「面白法人 カヤック」である。一般にはまだ知名度が足りないかも知れないが、ネット業界ではよく知られた企業だ。「サイコロ給」「スマイル給」といった人を食った給与制度や、「旅する支社」という期間限定支社の開設などユニークなシステムで知られる。

 代表の柳澤大輔氏は取材でいつもこう聞かれるという。

「なぜ鎌倉が拠点なのですか?」

その答えは「海と山と寺(神社)があるから」なのだそうだ。

 日本は東京に一極集中している、と言われるが、本社を地方都市に置いた企業も少なくない。山口のユニクロ、広島のマツダ。静岡や愛知の自動車関係だって、地場に残ってる。

 しばしば京都の企業は本社を移転せず、京都に居続けるという。しかし横浜の場合はそうなっていない。日産は戻ってきたが、ほとんどの企業は東京に出て行く。

 横浜は東京進出への足がかりに過ぎないのだろうか。

 横浜で起業した IT ベンチャーの経営者はどんなことを考えているのか訊いてみた。

平均2週間の開発スピード

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 和田憲治さんが代表取締役を務めるオンザボードは、昨年横浜駅西口で創業した。

 取材のきっかけは「平均2週間という短期間でサービスをローンチし続ける」「従来のインターンなどとは違い、開発したシステムの著作権は学生に帰属する」といった謳い文句や、ディレクターの給与を Twitterfacebook のつながり度で決める仕組みを興味深いと感じたからだ。

 求人欄に上げられた「望ましい人物像」も惚けていて最高だった。

 曰く「サーバの構築、運用経験(ビールサーバ含む)」。

 オンザボードの特徴はなんと言ってもスピード感である。創業1年で9つのウェブサービスを立ち上げている(*現在稼働しているのは8つ)。とくに看板とも言える「Toksy(トクシー) (※現在は停止中)」は、3.11被災者の復興支援サービスだが、会社が立ち上がったのが昨年2月で、3月に震災が発生。そのわずか1ヶ月後にサービスインしている。

 このスピードはどこから来るのだろう。

「出来たばかりの会社だと世間からそれ程見てもらえるわけではありません。創業1年目ですから、どんどん新しいサービスを出してインパクトを出そうと考えました。

 2人のエンジニアで9つサービスインしましたが、開発スピードは平均2週間。開発はそれぞれ別個で、ほとんど一人でやっています。

 既存の開発は「会議、文章作成、仕様を決めてプログラムを組む」といった手順を踏みますが、当社では新規開発をする際、ホワイトボードに書きながら口頭で話して「さあ、行ってみよう」です。仕様書などを策定せず、いきなり走り出します。ほとんど1人でやっているから出来ることですが」

 開発で心掛けていることは「当てに行っても当たるものではない。何が当たるか分からないので柔軟に。自分たちで流れをつくることよりも、お客様に選んでいただく」ことだという。

「1番反響があったのは「Toksy」ですね。 最高で一日48万PV(プレビュー) 。いまでもアクセス数は多くてボランティア団体で話題にされます」

 この「Toksy」とは3.11被災者からの支援リクエストに対し、支援者が送料を負担し、直接物資を送るサービスである。支援者に一切メリットはないが、反響は大きく、多くの人が見返りを求めずにモノを送り届けたという。

「Toksy」の特徴は、被災者と支援者が個人対個人で直接メッセージと物資のやりとりをすることである。メディアからの情報ではなく、現地在住の被災者から直に話を聞くことで、無駄の少ない支援ができる。仕分けなどの手間もないし、特定の物資が必要以上に集まってしまう失敗も防げる。

「サービスは面白い発想でないとダメですね。『Toksy』は送料は送り主の負担なのに無料であげちゃうというのが面白いでしょう。(利用者にしてみれば)相手が分かってれば、送料あげてもいいか、と考えるようですね。発送に関しては配送会社と契約しています」

 とはいえ「Toksy」を利用するために送り主は写真を撮ったり、梱包したりする必要がある。実際の所、こうした作業は意外と面倒くさいものである。利便性が高いとは言えないが、「実際ニーズがありました。やってみないと分からないものですね。捨てるのももったいない。でも売っても二束三文。手元にあるそういう商品を活かせるからでしょう。『これからの価値観につながる』という評価を頂いています」

「Toksy」は被災者ばかりでなく、障害者や施設に入っている子供たちへの物資提供にも利用できるという。「ペーパーワークがたいへんでちょっとまだ進んでいないのですが、半年前から提携話があります」

買い物を通じて絆がつくれるサービス

 オンザボードが展開しているサービスは「Toksy」のほか、漫画に特化した蔵書管理とSNSWebサービスComicab(コミキャブ(※現在は停止中)」など多種多様だ。

「マネタイズまでふくめて、現在力を入れているサービスは何でしょうか?」

「二つありまして、ひとつはサーフィン情報サイト(ShareWave)。サーファーは波があるところに移動していくわけですが、情報共有が大切なんですよ。水から上がったばかりの人の声を拾えるような、もっと生のやりとりができないか、と考え改修してサービスを向上させました。

 もうひとつは体験型EC サイトの『COZOTY(コゾティ)(※現在は停止中)』。仲間と一緒に共同購入が出来るサービスです。従来のオンラインショップは、一人で利用する事を前提としています。友達と買い物を楽しむという用途には向いていません。『COZOTY』は友達と一緒に商品購入することを前提としています。 Facebookなどを通じて期限内に必要な人数に達したときだけ、決済が行われます。

 このサービスの面白いところは、物品だけでなく『体験も買える』という部分です。例えば10万円のワインを10人で買って、誰かの所でパーティーするとか。そのときパーティーに手品師を呼ぶ、なんてことも出来ます。カメラやってる人が美容院を借りてモデルの写真を撮るとか。みんなで共同購入して誰かにプレゼントを贈る、とか。

 配達先は1箇所にまとめますので、新たにリアルなコミュニティーが作れると思います。買い物を通じて絆を作っていける、あるいは絆を確認できるものをご提供できそうだと考えています」

 オンザボードがFacebookなどのソーシャルネットワークを介したサービスを開発するのは、なぜだろうか。

「『メールするよりも会って話しましょうか』という人はいますが、100人の人と一度に会うのはむずかしいですよね。でも SNS なら可能です。そういうことを仕掛けていきたいんです」

大手企業は力のある学生の受け皿になりきれていない

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 オンザボードは、学生起業家への支援を行っている。  

「現在のビジネスシーンでは、どんなサービスを立ち上げるにしても IT は欠かせません。飲食など一部縁遠い業種もありますが、大抵の場合 IT が絡んできますから、なんらかのアドバイスが出来ます」

 今年1月、オンザボードは学生団体「ジェネクト」と大学生の就職活動支援サービスを共同開発した。

「『ヒルカツ(※現在は停止中)』というサービスなんですが、facebook を利用した学生と社会人のマッチングサービスです。昼食という堅苦しくない場で OB/OG訪問が可能です」

 じつはオンザボードと同じオフィス内に「株式会社K2」という家庭教師派遣業者が同居しているのだが、この会社は和田さんが学生起業家から買い取った企業なのだという。

「在学中に会社を作った学生がいたんですよ。卒業するときに就職が決まったのを、私が買い取りました。いまは別の者にまかせています」

「独立した人間を作りたいな、と思っているんですよ。誰かに頼るのではなく、「お互いプロ同士」という自立したパートナーになれる学生が出てきてくれたらな、と考えているんです。

 弊社には大企業にいればかなり給料を取れる技術者が揃っています。自分で何とかしようとする人は何とかなるし、『助けてくれ』と声を上げれば支援がある、ということは知ってもらいたいです。自分の周りに『愉しんで仕事を作っていける人を増やしたい』という思いもあります」

 和田さんがこう考えるようになった背景には、自身のキャリアパスが関係している。

「最初は証券会社にいたんです。研修中は皆『将来は独立したい』と言っていました。しかし実際はなかなか独立できない。学生の内に本気で独立するかどうか決めないと(独立は)むずかしいんですよ」

 学生エンジニアへの支援も和田さんの関心事の一つである。

富士通などの大手であっても、技術のある学生の受け入れは少ないですよ。技術は日進月歩です。いわゆる『枯れた技術(こなれた技術。時間が経過し、トラブルが解決され尽くした技術)』は本になって出回っていますが、facebook との連携など、新しいことは本に書かれていません。堅実な技術の提供よりも、人がまだやってないことを先にやる、という部分が大切ですね。今だったら『web 上でスマホSNS をどう使うか?』とか。

 ゲーム会社さんが若手エンジニアを高収入で引き抜く。 例えば800万出す。でも5年後どうなっているかは分かりません。ゲームの世界では『任天堂 DS よりもスマホで遊ぶ』という状態が顕著ですが、5年前には考えられませんでした。さらに5年後ということになると、誰にも読めません。

 時代は流れが速いので、大人数で開発していると切られる可能性があります。これからは『大きい会社で大きいプロジェクト』に参加するか『小さい会社でぱっとつくって大きく』していくか、二択でしょうね」

 大企業での開発とベンチャーでの開発は、大分様相が異なるという。

「例えば i モードですが、開発人数と開発時間をものすごく掛けています。システムが落ちたらいけない、だからテスターを100人使う、とか。

 でも twitter はちがいます。良く落ちます。『先にこういう機能つけて』という部分を優先しているからです。未来予測よりも、今流行っているものをどれだけできるか。スピード勝負とマッシュアップ*複数の異なる提供元の技術やコンテンツを複合させて新しいサービスを形作ること)です。

 とはいえ、スピードで勝負しているのは自社で開発しているサービスに関する話で、受託業務では長期スパンで堅実に開発しています」

横浜で起業するということ

 さて、冒頭の疑問にもどろう。ベンチャー企業にとって、横浜で事業展開することは不利にならないのだろうか。

「最初は都内で起業しようと思っていました」と和田さん。

「横浜で起業した直接の理由は、3.11があって借りようとしていた事務所が空かなくなったからなんです。流れで横浜にしただけで、戦略ではありませんでした。

 とはいえ、もう15年くらい前から横浜に住んでいますが、どんどん発展しているし、ビジネスやるのにちっとも不便じゃない。渋谷まで電車で30分。車でも第三京浜はあるし、むしろ以前住んでいた吉祥寺の方が、高速がない分、不便かも知れません。中央線はしょっちゅう止まるし、朝の井の頭は大変ですしね」

 そうしてもうひとつ、横浜での起業は和田さん自身の趣味も反映していたようだ。

「じつはサーフィンやっているのも横浜が気に入ってる理由なんです。5時くらいに自宅を出て、6時に海に入って、8時に上がって、仕事。社名の『オンザボード』もサーフィンに由来しているんですよ」

株式会社オンザボード
2011年創業。 ソーシャルサービスを通じたウェブサービス提供、コンサルティング、ウェブサイト構築
 
営業所
〒221-0835 神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町2-12-1鶴屋町第二ビル301

www.on-the-board.co.jp