メケメケ

メケメケ

町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

溶けた色ガラスの対流が形作る水中花のように妖しい世界

f:id:yanvalou:20170630073400j:plain
photo : craft@flowerfield

2015年7月17日に取材した東京都目黒区の「Khan Glass Works」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。

 ガラス工芸というと、溶けたガラスを金属製の竿の先に巻取り、息を吹き込んでコップなどを作る「吹きガラス」のイメージが強い。しかしここで紹介したいのは、ガラス棒をバーナーで溶かしてアクセサリーや小物をつくる「バーナーワークと呼ばれる技法である。

 大村欣央さんの主催する「Khan Glass Works」は、「ボロシリケイトガラス(ホウケイ酸ガラス)」を専門にした工房だ。聞き慣れないガラスだが、パイレックス(本来はアメリカのコーニング社の商標)」といえば、思い当たる方が多いのではないだろうか。まるでプラスチックのように軽いことで知られる硬質な耐熱ガラスだ。以前は透明色しかなかったこともあり、ビーカーなどの理化学器具の世界で使われていたのだが、アメリカのノーススター社が色ガラスを開発してから、ガラス造形の素材として盛んにつかわれるようになっているという。

  一般に「バーナーワーク」で制作されるガラスアクセサリーといえば「とんぼ玉」だが、「ボロシリケイトガラス」との間には以下のような違いがある。

  • とんぼ玉

  • 軟質ガラス
  • エアーバーナーで加工
  • 歴史が古い
  • ボロシリケートガラス

  • 硬質ガラス
  • 酸素バーナーで加工
  • 軽い
  • 透明度が高い
  • 1990年代から盛んに

ボロシリケートガラスには他の特徴として

  • 破損修理やガラス製指輪のサイズ直しが容易
  • 小さな鎖など繊細なものも作れる
  • サイズの大きなものは作りづらい(作り置きした小さなパーツを連結する必要がある)

などという特徴もあるという。

 吹きガラスのように炉も使用するが、熱するためというより時間をかけて冷ますための炉であり、565度に設定して使う(吹きガラスでは1,200度が一般的)。またガラスを吹くこともあるのだが、金属の竿越しに息を吹き入れるのではなく、チューブ状に下ごしらえしたガラス管を吹く、など従来のガラス工芸のイメージと勝手がちがうため、説明を聞いていて混乱した。

 まだまだ歴史が浅いこともあり、ボロシリケートガラスの作家や道具・素材メーカーは国内では少数派である。しかし確実に浸透しつつある分野だといえる。というのも、このガラスならではの「インプロージョン」という技法に魅せられる愛好家が増えているからだ。

「インプロージョン(「爆縮」と訳される)」は色ガラスと透明ガラスの間に温度差を生じさせ、透明ガラスのなかに花模様など生成する技法である。

 棒ガラスの先端を平たく潰してベースを作り、その表面に色ガラスを点打ちする。次にバーナーで炙ってベースの透明ガラスごと溶かし込むのだが、溶けた色ガラスが重力で垂れてくる対流の性質を利用するのがミソである。途中、ベースの先端を押さえて内部の色ガラスが伸びる方向を調整したり、バーナーで熱したりしながら成形していく。

 小箱に収められた完成見本の数々を拝見したが、インプロージョンで制作した花々は水中花のように美しかった。しかも信じられないくらい軽い。海外にはボロシリケートのアクセサリーコレクターがいるそうで、大村さんの作品も買い上げられていることだったが、それも納得だ。

 この可憐なアクセサリーをひとつ作るのに必要な時間は、わずか30〜40分程度。慣れていない生徒さんでも1時間半か2時間程度だという。

「シンプルなものは手早くやった方がガラスに負荷がかからず、上手く出来るんですよ」と大村さん。

 工房で週5日行われている教室では3時間の講座のうち、2時間は今出来ることを中心にすすめ、残り1時間を次のステップの練習に充てているという。初心者にはカリキュラムも用意されているが、大村さんと受講者が話をして個々人にあわせた内容で制作をすすめるのが基本的な形だ。

 工房は吹きガラスの工場のような無機質な空間ではなく、要所要所で木材も使用した自然な感じである。ガラスの個人工房としては広い方ではないかと感じた。

 大村さんがガラスと出会ったのも個人工房だったという。高校時代からアメリカに留学していた大村さん。偶々住んでいたのがボロシリケートガラスが盛んなオレゴン州だった。大学を中退し、友人が経営していたガラス工房に遊びに行ったのだが、1月の間ずっと通っていたという。そうこうするうちに「やってみるか?」と言われて休憩時間中に試させてもらったところ、初めてなのにも関わらずある程度のことが出来てしまったのだそうだ(大村さん曰く「ずっと見学していたから」とのこと)。そのまま数年間その工房で働き、技術を身につけていったという。

 当時は90年代半ばで、まだ工房も少なかった時代。硬質の色ガラスは数も少なく黎明期だったという。日本でボロシリケートガラスが知られるようになったのは2000年以降だ。

「アメリカが本場ですが、日本人に向いていると思うんですよ。もっと底上げして、メジャーなところに持っていきたいですね」。

 読者諸氏にも、この新しい工芸をぜひ体験していただきたいと思う。

Khan Glass Works (かーん ぐらす わーくす)
工房主宰:大村 欣央(おおむら よしお)
東京都目黒区緑ヶ丘1−11−8前田ビル1F
www.khan-glass.com

www.khan-glass.com