メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

糸と針が生み出す堅牢な総手縫い革鞄の魅力

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2015年5月下旬に取材した東京・高円寺の「TRUNK 手縫いの鞄教室」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。

 コンクリート打ちっぱなしの無機質な階段を地下に降りて行くと、扉の向こう側にウッディな空間が広がっていた。漆喰の白と木材の茶色で構成された空間は上品だ。「手縫いの鞄」を看板にしているだけあって、内装はすべて手作業で仕上げたという。西洋古民家のような風合いのある床や腰壁、作業用の机の塗装は柿渋とベンガラを混ぜあわせたもの。壁際のどっしりしたドローワーは英国製のアンティークで百年以上前のものだという。長い年月を経たせいか、天板が歪んで中央が若干凹んでいるものの、引き出しの開け閉めには支障がなく、滑るようにせり出してくれる。天板の歪みを計算した上での職人仕事なのだろう。

 その上に革小物の完成見本品が並んでいるが、角々がピシっとしてきれいなエッジが出ている。まるでセレクトショップのショーケースのようだ。こんな場所で手仕事を教わったら、自分もうまくなれそうな気がする。

「TRUNK 手縫いの鞄教室」の主催者、亀田佳康さんは祖父の代から高円寺住まいである。祖父はテーラーを、父はスーツの仕入れと販売を生業としていたそうだ。しかし亀田さんが子供の頃、スーツ量販店が出現。家業の将来性を危ぶんだ彼が選んだのは、レザークラフトの世界だった。

「デザインが好きで、特に立体的なものを形にするのが好きなんですよ。鞄、靴、インテリアなどさまざまな選択肢が考えられたんですが、職人さんが革で手縫いの鞄を作っているのを見て興味を持ったのがきっかけですね」

 家業の洋品店の手伝いやレストランの経営をしながら、3年半の間、鞄づくりの教室に通い基本的な技術を学んだ。教室は週1回だけだったので、ひたすら自分で作業しながら腕を磨いていった。

 そうして自分で教室を開いたのが2001年。30歳のときだった。

「TRUNK」のウリは手縫いだが、亀田さんははじめからミシンを使うことはしなかったという。

「実家が洋品店でしたからミシン自体に馴染みはありましたが、革にミシンを使うことはなかったですね。鞄などの厚めで堅牢な革製品をつくるときは、手縫いの方が向いているんですよ」

 手縫いの利点はいくつかある。

 たとえば多彩な刺縫いだ。手縫いの場合、平縫い、駒合わせ縫い、すくい縫い、拝み合わせ縫い……などあらゆる角度から針を刺し縫うことができる。しかも縫うための力加減もできるため、厚手の皮革を強く縫ったり、薄手のものを優しく縫ったりと素材に合わせた縫い方が可能だ。木や布など異素材との縫い合わせにも支障がない。また縫い合わせの強度に関しても手縫いの方に分がある。ミシン縫いの場合、上糸が下糸をすくいながら縫い合わせるため、どちらかが切れてしまうと縫い合わせが剥がれてしまうのだ。

 また手縫いの場合は1つの穴に2回糸を通す縫い方のため、万が一糸が切れてももう1方の糸に干渉することがない。したがって手縫いのほうが堅牢なのだ。

 こんな風に説明すると、ちょっとたいへんそうな作業に聞こえてしまうかもしれない。しかし亀田さんは「つまづくところはほとんどありません。大丈夫です」と明言する。

 教室の参加者は多くても1度に10名まで。課題となる制作物は、見本の中から各自が好きなものを選んで取り組む。ひとりひとり作るものが異なるため、各工程にとりかかるたびに亀田さんがテーブルを回って個別にアドバイスをしていく。型紙は教室で用意しているため、「上蓋と下蓋が合わない」などということもない。万が一うまく行かない箇所が出てきても、修正方法を一緒に考えながら作業を進めるので心配はいらないそうだ。

 人気のある課題は小物だと財布、鞄だとトートバッグとトランクだそうだ。製作期間だが、月3回のペースで参加した場合、こぶりなトランクにかかる時間は早い人で6~7ヶ月。大抵の人は1年くらいかかるという。

 トランクのような大きな作品を教えてくれる教室は珍しいそうで、地元中央線沿線在住の参加者よりも、むしろ広島、大阪、名古屋、静岡、仙台などわざわざ遠方から通ってくる人の方が目立つくらいだとか。大きな作品を作りたくて、よその教室から移ってくる人もいるという。亀田さんの教室にそれだけの価値があるという証拠だろう。

「革の最大の魅力は素材そのものですね。本格的な鞄を作って人に見せると『こんなすごいもの作ったの! じゃあ、私にも作ってよ』などと言われて知り合いに作ってあげたり、ということが起こります。こういうことは革製品でないとありえませんよね。革にはそれだけの魅力があるんですよ」

 しかも「TRUNK」で使っているのは、イタリアやイギリスのしっかりした革だそうだ。こんな教室で教わったら、一生ものの手仕事の技が身につくのではないだろうか。

TRUNK 手縫いの鞄教室(とらんく てぬいのかばんきょうしつ)
担当者名:亀田佳康(かめだ よしやす)
東京都杉並区高円寺北2-20-4 カメタビルB1F
http://tenui-kaban.jp

tenui-kaban.jp