メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

商品の品揃えから歴史が垣間見える、という骨董品店の話

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photo taken from "Crochet with Ricky" : http://crochetric.exblog.jp/20273036/

2015年7月2日に取材した恵比寿の「GENIO ANTICA(ジェニオ アンティカ)」の紹介文です。
お蔵入りしていたものを蔵出しいたします。
取材文のサンプルとして御覧下さい。
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新陳代謝の激しい繁華街の個人店。老舗として生き残ってきた店には新しい店にはない味がある。年輪を重ねた証はさりげない。飲食店であれば磨き抜かれた渋みのある床やドアの取手に。あるいは使い込まれたレジスターに。雑貨店であれば、所狭しと並んだ商品の品揃えに歴史を垣間見ることが出来る。

1985年創業の骨董品店「GENIO ANTICA」の場合、レジに向かって左手のガラスケースの中身は時代の生き証人のような存在だ。薄ピンクの英国製ティーセット。やさしい色合いとフェミニンなデザインで人気の名陶、スージー・クーパーである。
 
「店を始めて3年か4年経ったバブルの始まりの時期に、スージー・クーパーの食器がブームになったんですよ。こうして本まで出たんですから」。

南雲修さんは1995年に出版された飯塚恭子さんの『スージー・クーパーのある暮らし』(学研)という本を取り出して説明してくれた。


スージー・クーパーブーム絶頂の頃、「この食器の特集をしてみて売れるでしょうか?」と学研の方から訊かれた南雲さんは「すごく売れると思いますよ」と即答。それから半年ほどたって、もうその質問を忘れた頃に上記の本が出版されたのだという。

もともとスージー・クーパーの食器は高級品でもなければ、さほど良質の陶器でもない。イギリスではミドルクラスが普段使いするブランドだった。「日本での人気はフェミニンなデザインが主婦たちに受けたからだと思います」と南雲さん。

スージー・クーパーは「王冠をかけた恋」でスキャンダルを巻き起こしたエドワード8世がシンプソン夫人にプレゼントしたことで有名になったのだが、当時日本ではその事実は殆ど知られていなかった。しかし「デザインが良い舶来品」という理由だけ充分だった。

世は金余りのバブル期であった。奥様方は我先にとスージーを買いあさった。ティー・フォー・ツー(2人用)が25万円、六脚セットが3〜40万円というのが当時の相場だったが、それが飛ぶように売れた。お陰でイギリスでも品薄になる程だったという。今飾っているのは、当時の売れ残りだそうだ。
同じ頃テディーベアもブームだった。5〜6万の熊が1日何体も売れたという。

一転、現在は決まった売れ筋がない。どこのアンティークショップも売れ筋を見つけることができずにいるそうだ。

「扱う品をシフトしていかなきゃいけないんですが、古いものとなるとイギリスほど品数が揃っている国はないんですよ」。

例えばフランス製のアンティークは数世紀前のものならあるのだが、50年代、60年代のものになると程度の良い物が少ないのだという。北欧ブームが来たこともあったが、やはり数がなかったように思う、と南雲さんは語る。

はじめてイギリスに行った頃、現地は古いもので溢れていて買い付けに苦労することはなかった。仕入先も豊富だった。

平日は大きなアンティークフェアを廻る。10年ほど前から寄付された不要品を売りに出すチャリティーショップが増えているので、ここにも顔を出す。品揃えは幅広く、服でも、おもちゃでも、小物でもなんでもある。ここで仕入れるフリーマットのプロも多い。

週末はフリーマーケットや小さなアンティークフェアを覗く。ロンドン市内のフリーマーケットは大きなものが六ヶ所くらい。フェアの方は2〜30店から1,000店まで規模はピンキリだが、巨大なものになると出店数が3,000を超える。イギリスらしくフェアにも階級制度が影を落としており、入場料が5ポンド以上のフェアは紳士淑女の世界という感じで、我々には場違いに思えてしまうそうだ。

「骨董市で買い物するときのアドバイスをください」とお願いしたところ、
「迷ったらまちがいなく買ったほうがいいですよ。アンティークであっても1点ものとは限りません。量産品もあります。でも次に会うのはいつになるのか分かりません。5年後か10年後かも知れない。だからもし気に入ったら多少高くても買った方がいいですよ」という助言をいただいた。

さらに「イギリスのフェアには『アーリー・バード』というシステムがあって、相場の数倍の入場料を払うと開店前に入れるんです。ほんとにいいものはこの時間帯にプロが入って買い取ってしまいます」とか「『お前のために取っておいてやろう』と融通を利かせてくれる魔法使いのようなおばあさんが現地にいて、1ヶ月滞在して探しまくっても見つからない程のお宝を大量に送ってくれるんです」などといった裏話まで教えてくれた。

仕入れは重要な仕事だが、オフの日に美術館巡りをしたり、パブ巡りをしたりするのが楽しいと南雲さんはいう。

南雲さんが骨董の仕事を始めたのは35歳のときだった。きっかけは妻の親類に骨董商がいて「向いてるんじゃないか?」と言われたことだった。

初めての買い付けは苦い思い出だ。商品を4才(1才=1尺立法)の段ボール箱に入れて郵便局から発送したのだが、「隙間があったほうがいいだろう」と考えたのが間違いだった。日本で蓋を開けたところ全部割れていたのだ。それからは梱包を工夫し、ダンボールの二重梱包にしたり、割れ物を缶に入れるなどして送っているという。

「それでも初めのうちは『割れているんじゃないか』と悪い夢を見ることもありましたね」
店を始めて30年になる。最近イギリスから骨董品が減っていることに胸が痛むという。20年前までであれば、フリーマーケットでかばん一杯になった仕入れが、今では4個か5個がせいぜいだ。現地のバイヤーに混じって足を運んでいた地方の市(いち)が見る影もないほど縮小してがっかりしたこと、ロンドンの七百店規模のフェアがなくなってしまったこと、……すべてイギリス全土から古いものが海外流出してしまった結果だった。

日本の若者がものに思い入れを持たなくなったことも気になるという。

「若い子が来るので安いものも並べるようにしているんですが、すごく安くしても買ってくれないことがあるんです。彼らは不景気のなかで大きくなっているから仕方ないね」。

売上は店頭の方が多いものの、高額商品は来店する必要のないネットの方が出やすい傾向にある。飛び込みで来た若者には買えないものが、カウチ・サーファーには買えてしまうのだろう。

世相は開店当初と様変わりした。しかし南雲さんは店をやめるつもりはない。

「この仕事は年をとっても続けられるのいいですね。仕入れのとき歩き回るのがしんどくなってきましたが、まだまだつづけますよ」

カウンターの向こうで腰を落ち着けている店主の話を聞くと、骨董品探しはことさら面白く感じられるのだった。

GENIO ANTICA(ジェニオ アンティカ)
店主:南雲修(なぐもおさむ)
住所:〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西2-6-10ユニオン第2マンション1階
URL:http://www.genioantica.com

www.genioantica.com

2017年5月23日、タイトルを変更しました。