メケメケ

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町工場や倉庫がひしめく運河のほとりから、セカイに向けて書き綴るブログ。

ライターが詐欺の片棒を担いだ話(後編)

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当初はサロンやお稽古塾を中心に取材していたのだが、やがてカフェやレストランも取材するようになった。
求められるままに「料理の鉄人」に出演したシェフや、「くまモン」 を仕掛けた小山薫堂さんと関係のある人までも取材した。
すでに何冊か本を出している教室も取材している。
この手の人たちは取材慣れしているので、これといって実績のない媒体であっても気軽に OK してくれるようだった。

そんなこんなで50〜60件くらいは取材したと思う。

サロンの奥さまたちは
「これで名前を売って成功するんだ」
とやる気満々で対応してくる場合もあれば

「どうしてウチが選ばれたのかしら。とくに有名でも何でもないのに」
と戸惑い気味の人もいた。

ここまで書いて思いだしたのが、西湘にある絵画教室だった。
主催者はまだ二十歳そこそこの若い男性で美大にも行っておらず、絵も我流で描いているだけなのにも関わらず、絵画教室をひらいていた。
なぜここにアポを取ったのか、意図を図りかねた。

とはいえ拒否権はない。
取材してみたところ、なんと共通の知人がいることが判明し、いろいろ面白い展開になったのだが、……この話は後日気が向いたらまた書こう。

とにかく有名所に足を運ぶ一方で
「なぜここを取り上げなければならないのか。
取り上げる価値はあるのか」
と首をかしげたく案件もかなり多かった。

会社からは最期の最期まで自費出版の説明は受けておらず、取材の仕方を説明されただけだった。

自費出版の話は、会社のベランダで営業さんと雑談しているときに聞いた。

そのときはまだ詐欺の話は知らなかったものの、自分が自費出版のダシに使われていると知って唖然とした。

とは言え、お店取材や教室取材で型どおり以上の話が聞けるのは楽しかった。
通常の店舗取材では、営業時間やメニュー、特色などと言った表面的なことしか聞けない。
店主やサロン運営者の人柄を深掘りできるのは魅力だった。

要求されていた字数は店舗取材としては異例の1,600字。
最高2,000字まで OK という結構なボリュームだった。

しかし「原稿1本を1時間で書け」という社長の注文は、無理というものだった。

WELQ で有名となった web ライターは1時間で2,000文字書くそうだ。しかしそれは取材ではなく、誰かが書いた文章を書き直すだけだから、そのスピードで書けるのだ。
某有名 web ライターに質問したところ、やはりインタビュー記事で「1時間1,600文字」は無理との答えだった。

僕の場合、1本あたり2時間ちょっとかかることが多かった。
1時間で1本書き切れたのはほんの数回だ。
推敲も含めると、1本書くのに3時間弱掛かっていた。

しかもインタビューを1日2本こなさなければならない日がかなりあった。
僕が近況報告した際、双眼社と無関係な某ベテランライターでさえ「1日にインタビュー2本はキツイね」と言っていたくらいだ。
(とは言え、世の中には1日3本インタビューをこなす猛者もいるようです……)

社長は1日2本インタビューを取って、その日のうちに原稿をあげさせる、というのを半ばノルマのようにしていた。
そのくせ納品した原稿は、全部死蔵していたのだった。
訳が分からない。

とりあえず「掲載前の確認です」と言って先方に原稿を送りさえすれば、それで相手が気をよくするとでも思っていたのだろう。

結局、双眼社は昨年(つまり2016年)の春だったか夏だったかに、事実上倒産した。
その際、社長が横領詐欺で服役していた過去があり、名前も偽名だったという事実が明らかになり、出版費用をだまし取られた人々が激怒した。

編集者に関しては経験者が揃っていたものの、ライターは志望者ばかりで実力が伴っていなかったため、とても本が出せるポテンシャルのない会社だった。
(にもかかわらず、何冊か出版しているのだから、ある意味スゴいとも言える)

倒産後、ちょっとだけ仲良くしていた編集さんと久しぶりにお茶したところ、なぜか英語の本を出す計画まであり、しかも見本版まで完成させていたという話を聞いた。
実物をみせてもらったところ、それは外国人が日本の会社に入社するためのマニュアル本で、日本語で書かれたものを英訳したものだった。

詐欺行為を働いているその一方で、こういう割とまともな本を、しかも英語で出そうと考えるベンチャーっぽいところがこの会社らしい。

倒産とほぼ時期を同じくして、社長の咽頭癌がみつかり、もうなんだか。
人生、下り坂にさしかかるとなにもかもアボーンとなるのだろうか。

このときの原稿のうち、過半数は手元にある。
日の目を見ないまま死蔵させるのは忍びないし、取材相手にも失礼だ。
自分の作例紹介という意味も込めて、これから少しずつ公開していこうと思う。

最後に、怖いもの見たさの人もいるだろうから、双眼社の本のAmazonページへの商品リンクを張っておく。

 

*僕自身も含めて、双眼社のライターや編集者はバイト代を踏み倒されている。
最後まで働いていたひとたちの所には、労働基準局がきて事情聴取されたそうだ。
(すぐやめてしまったせいなのか、僕の所には来ていない)
詳しい詐欺の手口は何も知らないので、質問を受けてもお答えできない。
怪しいと思ったので、すぐやめて正解だったと思う。